さんしょうだゆう
山椒大夫
- 読了時間
- 約44分
- 文字数
- 21,948字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「中央公論」1915(大正4)年1月
三行でいうと
- 筑紫へ行ったきりの父を尋ねて、母と安寿・厨子王の姉弟、女中の姥竹が越後の道を旅している。
- 宿を貸した山岡大夫に舟で連れ出され、母と姉弟は引き離されて、姉弟は丹後の山椒大夫に買われる。
- 潮汲みと柴刈りの日々のなかで安寿の様子が変わり、ある日、弟と同じ山の仕事をしたいと願い出る。
登場人物
- 安寿
- 旅に出たとき十四歳の姉で、山椒大夫の邸では垣衣と名づけられて潮汲みをさせられる。
- 厨子王
- 十二歳の弟で、邸では萱草と名づけられて柴刈りをさせられる。
- 姥竹
- 姉娘が生まれたときから守りをしてきた女中で、身寄りがなく旅の伴をする。
- 山岡大夫
- 掟に背いてでも旅人を泊めると言って、一行に近づく船乗り。
- 山椒大夫
- 丹後の由良の石浦に大きな邸を構え、人を買って働かせる分限者。
- 二郎
- 山椒大夫の息子で、邸を見廻って奴婢の争いや盗みを取り締まっている。
- 三郎
- 山椒大夫の末の息子で、三十歳になる。
- 小萩
- 伊勢の二見が浦から買われてきた女子で、安寿に汐の汲み方を教えて姉妹の誓いをする。
- 曇猛律師
- 中山の国分寺の住持。
読みどころ
この作品の中心には、自分を残して弟を逃がそうとする姉の決心がある。安寿はある夜を境に口数が減り、弟にもわけを打ち明けない。読む人は厨子王と同じように、姉が何を考えているのか分からないまま後を追うことになる。
語り口は淡々としている。人買いの手口や邸の掟も、感情を交えずに書き留めていく。そのため、舟の上で母が子の名を呼ぶ場面や、額に焼けた火箸を当てられる夢の場面では、重さがかえって際立つ。山を登る途中で安寿が菫を見つけ、「ごらん。もう春になるのね」と弟に言う場面は短い。それでも、張りつめた前後の流れのなかでは目を引く。
森鷗外は後年、歴史に題材を取った小説を多く書いた。この作品は、説経節などで語り継がれてきた山椒大夫の伝説をもとにしている。大正四年に『中央公論』で発表された。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
安寿は弟を山の上へ連れて行き、一人で逃げて都へ上るよう言い聞かせる。中山の寺に隠れること、追っ手が帰ってから寺を出ることを教え、守本尊の地蔵を弟に預ける。厨子王は川の上手へ急いで去る。のちに追っ手は坂の下の沼の端で、安寿の小さい藁履を拾う。国分寺には三郎の率いる追っ手が押しかけるが、曇猛律師が勅願の寺だと言って引き取らせる。さらに鐘楼守が、子供は南へ急いだと告げて追っ手をそらす。
安寿が沼に入水したことは、国分寺の者が石浦で聞いてくる。厨子王は頭を剃って僧の姿になり、律師に連れられて都へ上る。清水寺で関白師実に守本尊を貸すと、病んでいた師実の養女がすぐに治る。厨子王は筑紫へ左遷された平正氏の子と認められ、元服して正道と名のる。父のもとへ赦免の使いが出るが、正氏はすでに死んでいた。
正道は丹後の国守になり、最初の政として国中で人の売り買いを禁じる。山椒大夫は奴婢を解き放って給料を払うことになり、一族はかえって富み栄える。安寿が入水した沼の畔には尼寺が立つことになる。正道は佐渡へ渡って母を探すが、行方は知れない。ある日、粟の穂を干した庭で、盲いた女が雀を追いながら「安寿恋しや、ほうやれほ。」と歌うようにつぶやいているのに行き当たる。正道は守本尊を額に当てて女の前に俯伏す。すると女の目が開き、「厨子王」と叫んで、二人は抱き合う。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日