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はんしちとりものちょう

半七捕物帳

勘平の死

岡本綺堂

読了時間
約32分
文字数
15,894字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 安政五年の暮れ、京橋の鉄物屋和泉屋の素人芝居で、勘平を演じた若旦那の角太郎が本物の刀で腹を切って死ぬ。
  2. 角太郎の生みの母である文字清が半七を訪ね、継母のおかみさんが刀を掏り替えたと訴えて仇を取ってくれと頼む。
  3. 十右衛門に案内された半七は、角太郎と深い仲のお冬に会ったあと、酔った姿で店先に座り込んで主殺しがいると呶鳴る。

登場人物

半七
神田の御用聞き。隠居した後に、若い語り手へ昔の事件を語って聞かせる。
文字清
下谷の常磐津の師匠。二十年前に和泉屋の主人の子を産み、その子が角太郎である。
角太郎
和泉屋の総領息子で十九歳。素人芝居で早野勘平を演じ、本物の刀で脇腹を突いて死ぬ。
大和屋十右衛門
芝の露月町の鉄物屋で、和泉屋のおかみさんの兄。妹が疑われないよう半七に調べを頼む。
お冬
和泉屋の仲働きで十七歳。角太郎と深い仲になり、嫁にする相談が内々に進んでいた。
和吉
和泉屋の店の者。芝居では千崎弥五郎を演じ、楽屋の四畳半に角太郎といた。
お粂
半七の妹で、常磐津の師匠。文字清を兄のもとへ連れてくる。

読みどころ

芝居の切腹に本物の刀が使われた。誰が刀を掏り替えたのかが、この話の謎である。生みの母の文字清は「親分。どうぞ仇を取ってください」と泣き、継母のおかみさんを疑う。一方で、おかみさんの兄の十右衛門は妹をかばって調べを頼む。二人の言い分は食い違い、どちらが本当なのか半七にも見当がつかない。

読むときは、半七の調べ方の変わったところに注目したい。昼の鰻屋で手酌の酒を重ね、顔を真っ赤にして和泉屋へ乗り込む。店先に胡坐をかいて番頭や小僧の顔を見まわし、乱暴な啖呵を切る。周りの者はただ困り果てるが、この振る舞いには狙いがある。中庭の南天の赤い実や籠の鶯の声など、師走の暖かい昼の景色も細かく描かれている。

岡本綺堂は『修禅寺物語』などで知られる歌舞伎の劇作家でもある。『半七捕物帳』は、隠居した半七老人が江戸の事件を語る形の連作だ。本作は題のとおり、『仮名手本忠臣蔵』六段目で早野勘平が切腹する場面から事件が始まる。素人芝居が盛んだった江戸の町の暮らしも、話の中から見えてくる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

半七は店の真ん中で酔い倒れたふりをして、しばらくすると起き上がる。中庭の南天の蔭に隠れていると、和吉がお冬の寝ている四畳半へ忍んでくる。和吉はお冬への思いから若旦那を憎むようになり、日蔭町で買った刀を幕のあく間ぎわに掏り替えたと打ち明ける。縄付きになる前に死ぬ覚悟だと言い、溜めた給金の二両一分をお冬に預けて出ていく。

間もなく和吉は裏の物置で首を縊って見つかる。半七は主人夫婦と十右衛門に、店から引き廻しの科人を出せば暖簾に疵が付くので、わざと嚇して自滅させたと明かす。確かな証拠は無く、手探りで呶鳴ってみたのだとも言う。和吉は乱心として内々に済ませることになる。半七は文字清にだけは真相を話すと断り、文字清の面倒を見てやってほしいと頼む。おかみさんは泣いて、これからは姉妹同様に付き合うと答える。

その後、お冬は和泉屋の娘分として浅草へ嫁ぎ、文字清も芝の方へ縁付いた。和泉屋は妹娘のお照が婿を取り、江戸が東京になると時計屋に商売を替えた。この一件のあと素人芝居では六段目が出なくなったと半七老人は語り、話を終える。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日