かぜはかせ
風博士
- 読了時間
- 約11分
- 文字数
- 5,339字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「青い馬 第二号」岩波書店、1931(昭和6)年6月1日
三行でいうと
- 語り手の「僕」は、遺書だけを残して姿を消した恩師の風博士について、その死を信じよと読者に訴える。
- 博士の遺書には、論敵の蛸博士が鬘で禿頭を隠していることや、妻を奪われた恨みが延々と書かれている。
- 結婚式の当日、花嫁と僕が夜明けまで待っても博士は現れない。駆けつけると、博士は書斎で本を読んでいた。
登場人物
- 風博士
- 僕の恩師で、ひどい慌て者である。博士の書斎には突風や竜巻が起きる。
- 蛸博士
- 風博士の論敵である。風博士は遺書で、彼が鬘で禿頭を隠していると訴える。
- 僕
- 語り手で、風博士の弟子である。博士と共謀したのではないかと警察に疑われている。
- 花嫁
- 風博士と結婚する十七歳の少女である。街頭で花を売っていた。
読みどころ
語り手は最初から最後まで「諸君」と読者に呼びかけ、大げさな漢文調で筋の通らない理屈を並べる。熱心に言い張るほど、話は本筋からずれていく。その可笑しさがこの作品の中心にある。
遺書では、源義経が成吉思汗になってバスクに住み着いたという博士の学説が、大まじめに語られる。読者を「太平洋の如き」「扇風機の如き」とたとえる奇妙なほめ言葉にも注目したい。後半は調子が変わる。慌て者の博士の書斎では時計が十三時を打ち、物の影が太陽に向かって走り出す。
坂口安吾が1931年に同人誌『青い馬』に発表した短編で、牧野信一に絶賛された。のちに『白痴』や『堕落論』で知られる作家が、世に出るきっかけになった作品である。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
遺書によると、博士は夜に蛸博士の寝室へ忍び込み、鬘を盗み出した。ところが翌日、蛸博士は別の鬘をかぶっていた。敗れた博士は、自分の方から消え去ることにしたと書いて遺書を結ぶ。
結婚式の日、僕は自分の書斎に祭壇を作り、花嫁と博士を待つ。夜が明けたので駆けつけると、博士は燕尾服を着て本を読んでいた。僕が時間を告げると、博士は約束を思い出し、「TATATATATAH!」と叫んで扉を蹴って飛び出す。追いかけた僕の前で博士の姿は消え、階段の下には突風が舞うばかりだった。
僕は、博士は風になったと繰り返し言い張る。最後に科学的な根拠として、ちょうど同じ瞬間に蛸博士がインフルエンザにかかったことを付け加える。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日