きゅうすけくんのはなし
久助君の話
- 読了時間
- 約10分
- 文字数
- 4,674字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 久助君は五年に上がるときにほうびをもらった。父は張り切り、帰ったらすぐ一時間勉強する決まりを作る。
- 秋の晴れた午後、勉強を終えた久助君は仲間を探して歩き回る。ほし草のそばで兵太郎君にひょっこり出会う。
- すもうの誘いも断る兵太郎君を、久助君は草の先でからかう。ふたりはほし草の上でとっくみあいを始める。
登場人物
- 久助君
- 四年から五年になるとき、学術優等品行方正のほうびをもらった少年である。
- 兵太郎君
- ほら兵とあだ名をつけられたほらふきの少年で、ひょうきんだがからかわれるのは好まない。
- おとうさん
- 電気会社の集金人で、久助君がほうびをもらうと一時間勉強する規則をきめた。
- 徳一君
- 家が医者の友だちで、この日はおかあさんと半田の方へ出かけていた。
読みどころ
よく知っている友だちは、ほんとうに知っている人なのか。この短い話は、子どもの遊びの一日を描きながらこの問いに行き着く。大きな事件は起きない。仲間を探して歩き、ほし草の上でとっくみあうだけである。その何でもない時間の終わりに、久助君の目に映る相手の姿が変わる。
前半では、兵太郎君の人柄が細かく書かれる。ほらを吹き、音痴でもかまわず歌い、笑うと道の上でも転がる。読者は久助君と同じように、兵太郎君をよく知っている気になる。とっくみあいの場面では、久助君の迷いが行ったり来たりする。相手が本気なのか冗談なのか、手の力や笑い声から何度も考え直す。その揺れを追うと、後半の静けさがいっそう際立つ。会話は土地の言葉で書かれている。
新美南吉は『ごん狐』や『手袋を買いに』で知られる児童文学の作家である。話の中に出てくる半田は、新美南吉が生まれた土地でもある。子どもに向けた言葉で書かれているが、人と人とのあいだの分かりきれなさを描いた作品として大人が読んでも残るものがある。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
ふたりは本気なのか冗談なのか分からないまま、夕方までとっくみあう。何度目かに久助君が上になると、兵太郎君はもう抵抗しない。遠くから車の輪の音が聞こえ、久助君はふいにさびしくなる。立ちあがって兵太郎君がベソをかいていたらと思うとやりきれない。とっくみあいのあいだ、久助君は一度も相手の顔を見ていなかった。
手をゆるめても、はなしても、兵太郎君は動かない。久助君が立ちあがると、兵太郎君も起きあがる。そして何もいわず、さびしそうなまなざしで地平線のあたりを眺める。久助君はその顔を見て、見たこともない少年と半日くるっていたように思う。久助君は「世界がうら返しになったように感じた」。
やがて、やはりいつもの兵太郎君だと分かり、久助君はほっとする。着物のごみをはらい、てれくさい気持ちのまま、しっけともいわずに別れる。それから久助君は思うようになる。よく知っている人でも、ときには知らない人になってしまうことがある。どちらがほんとうのその人なのかは分からない。それは久助君にとって新しい悲しみになった。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日