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きつね

狐

新美南吉

読了時間
約13分
文字数
6,228字
読みやすさ
やさしい
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 月夜に七人の子供が本郷の祭へ歩いてゆく。文六ちゃんは母親の大きな下駄をはいていて、みんなに遅れてしまう。
  2. 下駄屋で新しい下駄をはくと、居合わせたお婆さんが、晩に新しい下駄をおろすと狐がつくと言い出す。
  3. 祭の帰り道、文六ちゃんが小さく咳をする。子供たちはその音を狐の鳴き声だと思い、文六ちゃんをこわがりはじめる。

登場人物

文六ちゃん
樽屋の清六さんの一人きりの子供で、初等科三年生の甘えん坊である。
義則君
文六ちゃんより四年級上の親切な子で、下駄屋で文六ちゃんの下駄を選んでやる。
お母さん
文六ちゃんの母親で、毎晩いっしょに寝て文六ちゃんの話を喜んで聞く。
下駄屋の小母さん
本郷の下駄屋の主人で、マッチをするまねをして下駄にまじないをかける。
お婆さん
下駄屋に入ってきた腰のまがった老人で、狐がつくという言い伝えを口にする。

読みどころ

狐の出てこない狐の話である。晩に新しい下駄をおろすと狐がつく。子供たちは迷信だと言いながら、この一言を最後まで忘れられない。文六ちゃんの小さな咳ひとつで、昨日まで親切だった仲間が離れてゆく。噂が人をどう変えるか、変えられた側が何を思うかを、子供の目の高さで描いている。

前半は祭の夜の情景がいい。綿菓子、稚児の舞、電燈に集まる虫、そして口を開けて舌を出す三番叟の人形。仕掛けを知っているのに、夜の光の中ではぶきみに見える。その場面から、子供たちの気持ちが帰り道の不安へ移ってゆく。耳から耳へささやきが伝わり、咳が狐の鳴き声に聞こえてくるまでの運びに注目したい。後半は寝床での母と子の問答だけで進む。はじめはからかっていたお母さんの声が、途中から本気に変わってゆく。

新美南吉は『ごん狐』『手袋を買いに』でも狐を描いた童話作家である。この作品では狐は言い伝えの中にしかいない。その言い伝えを通して、仲間はずれのさびしさと、子を思う親の気持ちが描かれる。短く、言葉もやさしいので、子供と大人がいっしょに読める一編である。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

水車のところまで来ても、いつものように文六ちゃんを家まで送ろうとする子はいない。みんな文六ちゃんがこわいのである。文六ちゃんはひとりで細道を下りてゆく。みんなが下駄のことで何を言いかわしたかも、自分の咳のせいでどうなったかも、文六ちゃんは知っていた。家の木戸をくぐるとき、自分は本当に狐につかれているかもしれないと心配になる。

その夜、お母さんと床に入った文六ちゃんは、祭の話の途中で、晩に新しい下駄をおろすと狐につかれるのかと尋ねる。お母さんは嘘だと答えるが、文六ちゃんは、もし本当に狐になったらどうするかと重ねて聞く。お母さんは笑いながら「そしたら、もう、家におくわけにゃいかないね」と言い、それなら父ちゃんと母ちゃんも狐になって、三人で鴉根山へゆくと続ける。

文六ちゃんは、猟師が来たら、雪で餌がなくなったら、犬に追われたらと問いを重ねる。犬がすぐうしろに来たらと聞かれたお母さんは、しばらく黙ってから、まじめな声で答える。自分は足を引きずってゆっくり逃げ、犬に噛まれて猟師につかまるあいだに、坊やとお父ちゃんを逃がすと言うのである。文六ちゃんは「いやだったら、いやだったら、いやだったら!」とわめいてお母さんの胸にしがみつき、泣き出す。お母さんも寝間着の袖でこっそり目のふちをふき、文六ちゃんがはねとばした枕を拾って頭の下にあてがってやる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日