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ぐっど・ばい

グッド・バイ

太宰治

読了時間
約30分
文字数
14,642字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「朝日評論」1948(昭和23)年7月

三行でいうと

  1. 終戦から三年、闇商売で稼ぐ編集長の田島は、十人ちかい愛人と別れて妻子を呼び寄せようと考える。
  2. 文士の思いつきに乗り、すごい美人に妻のふりをさせて女たちを訪ね歩くことにして、相手を探しはじめる。
  3. 見つけたのは鴉声で怪力のかつぎ屋キヌ子だった。大食いで強欲な彼女を連れて、別れの行進が始まる。

登場人物

田島周二
三十四歳の雑誌「オベリスク」編集長で、闇商売の手伝いで儲け、愛人を十人ちかく養っているという噂がある。
永井キヌ子
闇のかつぎ屋で、鴉声と怪力の持ち主だが、着飾るとすごい美人になる。
文士
露骨で下品な口をきく初老の大男で、美人に妻のふりをさせる案を田島に授ける。
青木さん
日本橋のデパートの美容室で働く三十歳前後の戦争未亡人で、田島が生活費を助けている。
水原ケイ子
田島が生計を助けている三十前の洋画家で、シベリヤから引揚げた兄が部屋にいる。

読みどころ

抜け目の無い男が、自分より一枚上手の女に振り回される喜劇である。田島は多情なくせに、女に対して妙に律儀なところがある。キヌ子は着飾れば高貴な美人に見えるが、口を開けば鴉声で、言うことはいちいちゲスだ。この落差が、別れ話という重い題材を軽い笑いに変えている。

青木さんとの別れの場面に注目したい。田島の「グッド・バイ。」は、自分でも意外なほど優しい哀調を帯びる。その直後、キヌ子は「そんなに、うまくも無いじゃないの。」とパーマの出来を言う。しんみりした空気をすぐに崩す呼吸が、この作品の持ち味だ。語り手が田島を少し離れたところから眺め、からかうように語る口調も楽しめる。

1948年に太宰治が亡くなったため、この作品は未完のまま残った。同じ年に発表された『人間失格』とは違い、こちらは笑いの多い話として書かれている。章ごとの題も「変心」「行進」「怪力」と軽やかで、短い章を追ううちに引き込まれる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

田島はキヌ子を連れて、日本橋のデパートの美容室で働く青木さんを訪ねる。疎開先から女房を呼び寄せたと告げると、青木さんは泣きべそのような顔になる。田島は紙幣のたばを青木さんのポケットに滑りこませ、「グッド・バイ。」とささやく。そのあとキヌ子は田島の財布で高級品を次々に買い、田島はため息をつくばかりになる。

元を取ろうとした田島は、ウイスキイを持って世田谷のキヌ子のアパートを訪ねる。部屋は荒れ果てていたが、押入れの中だけは清潔に整っていた。田島は高いカラスミを買わされ、酔った振りで泊まろうとして断られる。抱きつこうとしてこぶしで頬を殴られ、壊れた眼鏡を赤いテープでつくろって帰る。

数日後、田島は電話で交渉し、一日五千円でキヌ子を雇う。次の相手は洋画家の水原ケイ子で、引揚げてきた兄が部屋にいる。田島は、兄が腕を振り上げたらキヌ子に取りおさえてもらおうと考え、丁寧な言葉で頼む。物語はここで途切れ、未完のまま終わる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日