このページには広告(Amazonの商品リンク)が含まれます。

のぎくのはか

野菊の墓

伊藤左千夫

読了時間
約1時間7分
文字数
33,375字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「ホトトギス」1906(明治39)年1月

三行でいうと

  1. 矢切村の旧家で暮らす十五歳の政夫と、母の看病に来た従妹の民子は、何より仲の好い二人だった。
  2. 二人の仲が噂になり、母に叱られたことを境に、互いを意識して前のようには話せなくなる。
  3. 棉採りの道で野菊の話をした日、帰りが遅れて家中に疑われ、政夫は予定より早く千葉の中学へ発たされる。

登場人物

政夫
語り手の「僕」で、矢切村の斎藤家の息子。小学校を卒業したばかりの十五歳である。
民子
政夫の母の看病と家の手伝いのために、市川から来ている十七歳の従妹である。
母
政夫の母で、血の道で長く寝ている。民子を乳呑児のころから我が子のように可愛がってきた。
お増
斎藤家の作おんなで、二人の仲を冷やかす。根はごく人のよい親切な女である。
嫂
政夫の兄の妻で、二人の仲をよく思っていない。当てこすりを言って民子を泣かせる。

読みどころ

この小説は、大人になった政夫が十年余り前の秋を思い返して書いた形をとる。十五歳と十七歳の二人は、互いの思いを言葉にできないまま引き離されていく。民子は自分が年上であることを気に病み、政夫はそれを少しも気にしない。噂や家の都合に、まだ幼い恋がどう押し流されるかが読みどころである。

注目したいのは、母の言いつけで二人が山畑へ棉を採りに行く一日だ。道端の野菊を摘んだ政夫は、民子を野菊にたとえる。弁当のあとで民子は「政夫さんはりんどうの様な人だ」と言い返す。語り手は芽生えたばかりの思いを「恋の卵」と呼び、二人が一歩を踏み出せない様子を細かく書いている。茄子畑の夕日や月夜の蕎麦畑など、矢切の景色の描き方にも目を向けたい。

伊藤左千夫は正岡子規に学んだ歌人で、短歌雑誌『アララギ』を支えた。本作は1906年に雑誌『ホトトギス』に発表した小説である。文章は明治の口語で、土地の言葉もまじる。それでも会話が多く、筋は追いやすい。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

十月十七日の朝、政夫は小雨の矢切の渡で民子とお増に見送られて舟に乗る。二人は人目をはばかり、一言も交わせないまま別れた。冬休みに帰ると、民子は嫂の当てこすりのせいで二日前に市川へ帰されていた。民子が母にきつく叱られたことと、母も民子を政夫の嫁にはできないと考えるようになったことを、政夫はお増から聞く。

翌年の暮れに帰った政夫は、発つ朝に母から、民子が霜月に市川の裕福な家へ嫁いだと聞く。六月に電報で呼び戻されると、母は泣きながら民子の死を告げた。母は、いやがる民子に政夫と夫婦にすることは自分が許さないと言い、ほかの家へ嫁がせていた。民子は身ごもった子を六か月で流し、肥立ちが悪いまま六月十九日に亡くなった。

翌朝、政夫は市川の戸村家を訪ねて墓に参る。祖母の話では、民子は最期に「死ぬが本望であります」と言った。左手には、紅絹に包んだ政夫の写真と手紙を握っていた。政夫は七日のあいだ墓に通い、墓のまわりを野菊で埋める。政夫も民子と同じく余儀ない結婚をして生き長らえているが、心は一日も民子を離れないと書いて話を結ぶ。

読んでみる

青空文庫で無料で読む図書カード:野菊の墓

本で読む

注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。

次に読むなら

公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日