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うしおんな

牛女

小川未明

読了時間
約10分
文字数
4,871字
読みやすさ
やさしい
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「おとぎの世界」1919(大正8)年5月

三行でいうと

  1. ある村に、体が大きく口のきけない女がいた。やさしい女で、一人の男の子を大事に育て、村の人から「牛女」と呼ばれた。
  2. 牛女は重い病で死ぬ。その後は冬が来るたびに、西の山の雪の上に黒い姿で現れ、子供を見守るようになる。
  3. 大きくなった子供は、奉公先の町を黙って飛び出す。南の国で働いて金持ちになり、やがて故郷へ帰ってくる。

登場人物

牛女
背が高く力の強い女で、耳が聞こえず口もきけない。父親のいない一人息子をかわいがり、力仕事で暮らしを立てる。
牛女の子供
牛女の男の子。母の死後は村の人々に育てられ、町の商家へ奉公に出される。
じいさん
村のもののわかった老人。りんごの実が落ち続けるわけを、牛女の子供に尋ねる。

読みどころ

母は死んだ後も子を案じ続け、その思いは雪の山に浮かぶ黒い姿になる。子が母のもとを離れたとき、その思いはどこへ行くのか。この物語はそれを短い筋のなかで追う。見守る母と、見守られていることを忘れかける子のすれ違いが、物語の芯にある。

注目したいのは、牛女の姿が季節と結びついているところだ。雪が積もると姿が現れ、雪解けとともに薄れて消える。村人もそれに慣れ、やがて「ああ、牛女の姿があんなにうすくなったもの、暖かになったはずだ。」と言うようになる。語りは村の人々の目に寄り添う。牛女の姿を何度も見つけ、そのわけを口々に語るのも村人である。

小川未明は新潟県の高田に生まれ、雪国を舞台にした童話を多く残した。『赤い蝋燭と人魚』と同じく、この作品も読後に哀しみが残る。そのうえで、親子の情愛を土地の暮らしや季節と重ねて描いている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

子供が町を去った年の冬、西の山に牛女の姿は現れなかった。春先になると、夜の町を大きな女がのそりのそりと歩くようになる。人々はそれを見て、牛女が子供を探していると考えた。ある夜、牛女は暗い路地でさめざめと泣いていた。その姿を最後に、町でも山でも牛女を見た者はいない。

南の国で金持ちになった子供は、育ててくれた村の人々に礼を言うため故郷へ帰る。村に広い土地を買ってりんごの木を植えるが、実がなるたびに虫がつき、毎年落ちてしまう。じいさんに心当たりを聞かれた後で、子供は思い出した。町を出るとき母の霊に断らなかったし、帰ってからも墓参りをしただけで、法事を営んでいなかった。これを母の怒りだと考え、坊さんと村の人々を呼んで真心をこめて法事を営む。

その年の夏、たくさんのこうもりが毎晩りんご畑の上を飛び回り、悪い虫を食べつくした。群れの中には、女王のように仲間を率いる大きなこうもりが一匹いた。りんごはよく実り、村の人々は「牛女が、こうもりになってきて、子供の身の上を守るんだ。」と語り合う。こうもりは次の年も、その次の年も来た。四、五年の後、牛女の子供はこの地方で幸福な百姓になる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日