ひかりのすあし
ひかりの素足
- 読了時間
- 約35分
- 文字数
- 17,058字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字旧仮名
三行でいうと
- 山小屋で父と夜を明かした一郎と弟の楢夫。朝になって、楢夫は風の又三郎に言われたことがこわいと泣き出す。
- 学校があるので兄弟は馬をひく人について家へ向かう。だが二人は先に歩き出し、峠で吹雪に巻かれる。
- 道を見失った一郎は、楢夫を抱いて雪の中に座りこむ。気がつくと、はだしで薄暗い見知らぬ国を歩いていた。
登場人物
- 一郎
- 楢夫の兄で、吹雪の峠では弟を毛布で包んで抱きしめる。
- 楢夫
- 一郎の弟で、手が霜やけで赤くふくれている。
- お父さん
- 山小屋で兄弟と過ごし、土曜日にまた迎えに行くと約束して二人を家へ帰す。
- 馬をひいた人
- 炭俵を馬につけて楢鼻まで行く人で、兄弟はこの人について帰るはずだった。
- 鬼
- 薄暗い国で、足を傷つけた子供らを鞭で追い立てる。
- 巨きな光る人
- 白く光る大きなはだしの足で、鋭い瑪瑙のかけらを踏んでも傷つかない。
- となりの家の赤髯の人
- 雪に埋まっていた一郎を起こそうとする村の人。
読みどころ
この作品の芯にあるのは、弟を守り通そうとする兄の姿だ。一郎は朝、楢夫の霜やけの手を両手で包んで温めてやる。吹雪の峠では弟を抱いて座りこみ、鬼の鞭からも身をもって楢夫をかばう。そうした小さなふるまいが積み重なって、終わりの場面までつながっていく。
最初に目が行くのは、小屋の場面で楢夫が泣き出すところだ。風の又三郎に言われた言葉を楢夫が一つずつ口にするたびに、お父さんも一郎も顔色を変える。前半の会話は土地の言葉で書かれているが、薄暗い国に入ると兄弟は標準語で話し始める。この切り替えに気をつけて読むとよい。日光の棒や雪の輝き、光る足の白さなど、光の描き方も章ごとに大きく変わっていく。
宮沢賢治の童話の中でも、死と救いを正面から扱った作品である。作中に出てくる、にょらいじゅりゃうぼん第十六という語は、賢治が信仰した法華経の如来寿量品を指す。のちに『銀河鉄道の夜』で描かれる、死にゆく者との別れにも通じる一編だ。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
薄暗い国で、一郎は消えたりともったりしている楢夫を見つけて抱きしめる。楢夫は「死んだんだ。」と言って泣く。二人は明るいところを目指すが、そこでは傷ついた子供らが鬼に鞭で追われていた。兄弟も列に入れられる。楢夫が倒れると、一郎は鬼の手にすがり「私を代りに打って下さい。楢夫はなんにも悪いことがないのです。」と頼む。鬼は「罪はこんどばかりではないぞ。歩け。」と答える。
瑪瑙のかけらが足を切る野原で、一郎は両腕で楢夫をかばい続ける。そのとき、にょらいじゅりゃうぼん第十六という語がかすかに聞こえる。一郎がそれをつぶやくと、鞭の音も叫び声もやむ。白く光るはだしの足を持つ大きな人がまっすぐ歩いて来て、子供らの傷を癒やす。地面は青い宝石のように平らになり、宝石細工のような木々と建物が現れる。その人は楢夫に、ここで学校に入り、しばらく兄と別れなければならないと告げる。一郎には、もとの世界へ帰ってほんたうの道を習えと言う。霧の向こうで、光る楢夫がかすかに笑って手を伸ばす。
一郎が目を開けると、雪の上に青空が広がっていた。楢夫を抱いたまま雪に埋まっていたところを、村の人たちが見つけたのだった。楢夫の顔は赤く、唇は光の国で別れたときのままかすかに笑っていた。しかし目は閉じ、息は絶え、手も胸も氷のように冷えていた。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日