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おとぎぞうし

お伽草紙

太宰治

読了時間
約2時間22分
文字数
70,795字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 筑摩書房刊、1945(昭和20)年10月

三行でいうと

  1. 空襲の夜、防空壕で子に絵本を読む父が、昔話とは別の物語を胸の中で組み立てはじめる。
  2. 瘤を孫のように可愛がる酒好きのお爺さんが、剣山の奥で酔った鬼たちの宴に飛び込む。
  3. 浦島は口の悪い亀と竜宮へ行き、狸は兎の少女に恋をして、雀は老人の机で口をきく。

登場人物

父
防空壕の中で五歳の女の子に絵本を読みながら、別の物語を胸の中で思い描く。
お爺さん
阿波の剣山のふもとに住む酒好きの老人で、右の頬の瘤を自分の孫のように思っている。
浦島太郎
丹後の旧家の長男で風流を好み、弟や妹から冒険心が無いと言われている。
亀
浦島に助けられた赤海亀で、恩返しに竜宮へ案内しながら毒舌をふるう。
乙姫
竜宮に住み、ものを言わずに幽かに笑って琴をひいている。
兎
十六歳の美しい処女で、狸に捕まった爺さんと婆さんの友達である。
狸
兎の少女に思いを寄せる狸で、十七と言っているが本当は三十七歳である。
お照
仙台郊外の竹藪の家でお爺さんに拾われ、可愛がられていた小雀である。
お鈴
すずめのお宿でお爺さんを迎える、お照の一番の仲良しの雀である。

読みどころ

『お伽草紙』は、瘤取り、浦島さん、カチカチ山、舌切雀の四つの昔話を作り直した連作だ。空襲の夜の防空壕で、父が子に絵本を読みながら別の物語を思い描く形で語られる。昔話の人物に性格を与えると、善い者が報われ悪い者が罰される筋はそのままでは通らなくなる。どの話も笑えるが、読み終えると教訓だけでは片づかないものが残る。

注目したいのは、語り手の脱線と会話の勢いだ。浦島に「信じる力」を説く亀の長い毒舌は、浦島の気取りを次々に崩していく。年を隠そうとして言い逃れを重ねる狸の台詞も、読んでいて声に出したくなる。片仮名で書かれた絵本の文句が地の文の合間に挟まり、昔話の素朴さと大人の皮肉が並ぶ。鬼才という言葉への不満や赤海亀の考証のように、話がそれる部分にも語り手の顔が出る。

太宰治が戦争末期に書いた作品で、1945年に刊行された。語り手は、桃太郎を書かなかった理由も作中で語っている。もとの昔話をよく知っている人ほど、筋のずらし方を楽しめる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

瘤取りでは、鬼たちが踊りを喜び、また来る約束のしるしにお爺さんの瘤をむしり取る。噂を聞いた近所の旦那も、左の頬の瘤を取ってもらおうと山へ行く。しかし意気込みすぎた舞いに鬼たちは逃げ出し、預かっていた瘤を右の頬に付けられて瘤は二つになる。語り手は誰も悪いことをしていないと述べ、これを「性格の悲喜劇といふものです。」と結ぶ。浦島は竜宮で無限に許される日々に飽き、陸上が恋しくなって帰る。乙姫は黙って小さな貝殻を渡し、亀は開けないほうがいいかもしれないと言う。故郷の家も里も消えており、浦島は迷った末に貝殻を開けて白髪の老人になる。語り手は「忘却は、人間の救ひである。」と考え、浦島はそれから十年、幸福な老人として生きたと結ぶ。

カチカチ山では、兎が狸を柴刈りに誘い、帰り道で狸の背負った柴に火がつく。翌日、男の薬売りを名乗る兎が来て、狸の火傷に唐辛子を練ったものを塗る。治った狸がまた訪ねると、兎は鮒捕りに誘って狸を泥の舟に乗せる。舟は湖の上で沈みはじめ、兎は綱を切って櫂で狸の頭を打つ。狸は「惚れたが悪いか。」と言って沈み、兎は「おお、ひどい汗。」と言う。

舌切雀では、雀と話していたお爺さんにお婆さんが腹を立て、雀の舌をむしり取る。お爺さんは雪の竹藪を毎日捜し歩き、落ちてきた雪に打たれて倒れたあと、雀のお宿で目を覚ます。お照とはほとんど言葉を交わさず、葛籠も断って稲の穂だけを持ち帰る。話を信じないお婆さんは竹藪へ行き、重い大きな葛籠を背負ったまま雪の上で冷たくなっていた。葛籠には金貨が詰まっていた。お爺さんはやがて一国の宰相になり、出世を雀のおかげと言われるたびに「いや、女房のおかげです。あれには、苦労をかけました。」と答えた。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日