はんしちとりものちょう
半七捕物帳
半鐘の怪
- 読了時間
- 約32分
- 文字数
- 15,735字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 江戸の下町で、火事でもないのに夜ごと半鐘が鳴る。見張りがいるあいだは鳴らず、気をゆるめると鳴り出す。
- 囲い者の女が髷をつかまれ、物干の着物は屋根を歩いていく。いたずら小僧の権太郎が疑われて縛られる。
- 権太郎を縛った夜も半鐘は鳴り、娘や自身番の親方が闇の中で襲われる。半七は鞴祭りの日に町へ入る。
登場人物
- 半七
- 神田の岡っ引きで、老いてから「わたし」に昔の捕物を語って聞かせる。
- 権太郎
- 町内の鍛冶屋の弟子で十四歳になる、評判のいたずら小僧である。
- 佐兵衛
- 小さい自身番の親方で、五十ぐらいの独身者。冬になると疝気に悩む。
- 伝七
- 自身番に詰める定番の一人で、四十を越した臆病な独身者である。
- お北
- もとは柳橋の芸妓で、日本橋辺の大店の番頭に引かされた囲い者である。
- お咲
- 煙草屋の十七の娘で、権太郎が垣根に登るのを見た。
- お倉
- 番太郎の気丈な女房である。
読みどころ
夜ごとに半鐘が鳴る。人の仕業なのか化け物なのか、町内の意見は事件のたびに揺れ動く。その揺れの中で、ふだんの行いが悪いというだけで一人の少年が疑われる。不思議な出来事の謎解きと並んで、周りの大人が少年をどう扱ったかも、この話の筋の中心にある。
語り手の半七老人は話の途中で、自身番や番太郎が昔どんな役目だったかを説明してくれる。江戸の町の仕組みを知らなくても、半鐘が鳴ると誰が叱られるのかがよく分かる。焼芋屋の行燈、鞴祭りで撒かれる蜜柑、急に降り出す霰など、季節の描き方にも注目したい。後半では空家の軒下で、半七と権太郎が問答をする。少年の口ぶりが少しずつ変わっていく場面である。
『半七捕物帳』は岡本綺堂の代表作で、年老いた半七が若い「わたし」に昔の捕物を語る形で書かれている。冒頭で老人は、以前に話した『お化け師匠』の家の近くの出来事だと前置きする。シリーズを順に読んでいる人は、町の位置関係も重ねて楽しめる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
半七は稲荷の社の前の空地で権太郎を問いただす。権太郎は泣きながら打ち明ける。十七の兄が下駄屋に奉公していて、弟が無実で縛られたのを悔しがった。それでお咲と佐兵衛とお倉を闇で襲っていた。権太郎は兄の代わりに自分を縛ってくれとすがる。半七は兄を許し、この話は誰にも言わないと約束する。
半七は権太郎に鞴祭りの蜜柑を稲荷の社へ転がし込ませるが、何も出てこない。次にお北が住んでいた空家の座敷に蜜柑を投げ込んで待つ。すると何かが破れた障子からもぐり込み、蜜柑を食べ始めた。二人は座敷に踏み込み、権太郎が組み伏せて帯で縛り上げる。捕まえたのは大きな猿であった。半鐘を調べたとき、火の見梯子に獣の爪の跡が多く残っていたので、半七は猿に見当をつけていた。
猿は両国の猿芝居から逃げた役者で、女形として八百屋お七を出し物にしていた。そのため火の見に駆け上がって半鐘を打ったらしいと、半七老人は笑う。兄のしたことも含めて、すべては猿のいたずらということで片がつく。飼主は一貫文の科料、猿は遠島となって八丈島へ送られた。権太郎は化け物を退治してから町内の人たちにかわいがられ、やがて一人前の職人になった。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日