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はんしちとりものちょう

半七捕物帳

お文の魂

岡本綺堂

読了時間
約33分
文字数
16,072字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 冷たい雨の夜、少年の「わたし」はKのおじさんから、叔父が語らなかった「おふみの一件」を聞かせてもらう。
  2. 元治元年、旗本の妻お道は枕もとに濡れた女が出ると訴え、兄の松村彦太郎に離縁の掛け合いを頼む。
  3. 池や井戸をさらっても何も出ず、相談を受けたKのおじさんは岡っ引の半七に知恵を借りることにする。

登場人物

わたし
語り手で、十二の年に「おふみの一件」を知りたがり、二年後の雨の夜にKのおじさんから話を聞く。
Kのおじさん
小幡の屋敷の近所に住む旗本の次男で、幽霊の噂を聞くとすぐに事の実否を確かめに行く。
半七
神田の岡っ引で、Kのおじさんの頼みを受けて蔭の人として探索に当たる。
お道
松村彦太郎の妹で、小幡伊織に嫁いで四年になる二十一歳の女房である。
お春
お道の三つになる娘で、夜中に「ふみが来た」と叫ぶ。
小幡伊織
小石川西江戸川端に屋敷を持つ旗本で、お道の夫である。
松村彦太郎
番町に屋敷を持つ三百石の旗本で、蘭学ができて外国掛に出仕している。
浄円寺の住職
小幡家の菩提所である下谷の浄円寺の住職で、四十前後の色の白い人である。

読みどころ

化け物話を嫌う叔父が、一度だけ「しかし世の中には解らないことがある」と漏らした。この一件が本当に幽霊の仕業なのかが、物語を引っぱる問いである。屋敷の者を集めて問いただし、池や井戸までさらっても答えは出ない。武士の体面と家の外聞を気にする大人たちが、目に見えない相手に振り回される様子がおもしろい。

語りは二重になっている。雨の夜に少年がおじさんの話を聞く外枠があり、その中で元治元年の出来事が語られる。半七は話の半ばでようやく登場し、「ねえ、旦那。幽霊は、ほんとうに出るんでしょうか」と問い返す。そのあと思いも付かない質問を重ねていく。何を手がかりにしたのかを考えながら読むと楽しい。無役の次三男が退屈しのぎに事件を待つ、江戸の侍の暮らしぶりも細かく書かれている。

岡本綺堂が江戸の岡っ引を主人公に書いた『半七捕物帳』の第一話である。1917年に雑誌『文芸倶楽部』で発表された。作中で語り手は半七を「江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズ」と呼ぶ。この話から、後に長く続く半七老人の昔語りが始まる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

半七はKのおじさんと貸本屋の田島屋を訪ね、小幡の屋敷へ貸した『新編うす墨草紙』を見つける。下の巻の挿絵には、池から浮き出た濡れた腰元の幽霊が描かれていた。二人は続けて浄円寺へ行き、幽霊を退ける祈祷を頼む。住職は蒼くなってふるえ、馳走を出したうえ、紙に包んだものを半七に渡そうとする。半七はそれを突き戻し、住職には悪い噂があるので釘をさしておけば足りると言って去る。

おじさんの報告を聞いた小幡はお道を問い詰める。お道は浄円寺の住職から「ああ、御運の悪い方だ」と言われ、夫といれば自分にも娘にも禍いが来ると諭されていた。雛を片付けた日、お道は草双紙の挿絵を見て怯えるお春に、お文というお化けが池から出ると言い聞かせた。お春がその晩から「ふみが来た」と叫ぶようになったのを利用して、お道は幽霊の話を作り、夫の家を去ろうとしたのだった。

おじさんの取りなしでお道は夫に許される。表向きはお文の魂の追善供養が営まれ、お春は医師の療治で夜啼きをやめた。真相を知らない松村は不思議な話として親しい人に語り、その一人が「わたし」の叔父だった。半年後、住職は女犯の罪で寺社方に捕らえられた。それから十年ほど経った頃、「わたし」は隠居した半七老人と懇意になり、昔語りを聞くようになる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日