はんしちとりものちょう
半七捕物帳
石灯籠
- 読了時間
- 約32分
- 文字数
- 15,939字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 天保十二年の暮れ、十九歳の半七は、小間物屋菊村の娘お菊が浅草へ出かけたまま帰らないと聞く。
- 消えたお菊は黄八丈に藤色の頭巾の姿で家に現れ、すぐまた消える。翌晩には母のお寅が刺し殺される。
- 女中たちはお菊の後ろ姿を見たと言う。半七は庭の苔むした石燈籠に、小さな爪先の跡を見つける。
登場人物
- 半七
- 神田の岡っ引吉五郎の子分で十九歳。日本橋の木綿店の通い番頭の子に生まれた。
- 吉五郎
- 神田の岡っ引で半七の親分。酒癖はよくないが、子分の面倒はよく見る。
- お菊
- 日本橋の小間物屋菊村の一人娘で十八歳。番頭の清次郎とひそかに通じている。
- お寅
- 菊村の女あるじ。五年ほど前に夫を亡くし、一家を取りしきっている。
- 清次郎
- 菊村の若い番頭。正直者で、お菊が消えてから眠れずにいる。
- お竹
- 菊村の仲働き。浅草の観音詣りでお菊の供をした。
- 重蔵
- 菊村の大番頭。半七を庭へ案内する。
読みどころ
行方の知れない娘が家に戻ってきては消え、ついには母が殺される。駆けつけた女中三人は、そろって娘の後ろ姿を見ている。ところが塀にも庭の木戸にも、人が越えた跡がない。親殺しの疑いが娘に向かうなか、駆け出しの半七はこの食い違いの裏を探っていく。
注目したいのは、半七が庭の石燈籠に目を留める場面だ。誰も触ってはいけないと言われてきた燈籠に、小さな手がかりが残っていた。後半では両国の広小路や、冬の夕暮れの大川が細かく描かれる。物語は年老いた半七が聞き手の「わたし」に昔話を語る形で進み、冒頭では岡っ引と手先の仕組みや給料まで説明される。
『半七捕物帳』は岡本綺堂の連作で、捕物帳ものの先駆けとされる。この話は半七が十九歳で初めて手柄を立てた事件にあたる。家を飛び出して吉五郎の子分になった経緯も語られ、連作の入口として読みやすい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
苔に残る爪先は女のものらしい。しかし高い塀を楽に越せる女はめったにいない。半七は身の軽い軽業師に思い当たり、両国の小屋に出ている春風小柳に目を付ける。小柳には年下の男、金次が付いていた。半七は向う両国の金次の家に上がり込み、血を洗ったらしい黄八丈が干してあるのを見つける。帰ってきた金次は問い詰められ、すべてを白状する。
小柳と金次は奥山で茶屋を出るお菊を見かけ、清次郎が急病で倒れたとだまして駕籠で連れ去った。お菊は潮来へ四十両で売られた。小柳は残った黄八丈と頭巾でお菊に化け、菊村の金を盗もうとした。一晩目はしくじり、二晩目にお寅に声を上げられて刺し殺した。
半七は手先二人と小柳を親分のもとへ連れて行く。両国橋の中ほどで小柳は「金さん、堪忍しておくれよ」と叫び、半七を突きのけて大川へ飛び込む。翌日、向う河岸の百本杭で死体が見つかる。お菊は潮来から無事に連れ戻された。清次郎は叱り置きで許され、金次は遠島になる。この一件で半七の名は上がり、のちに吉五郎の跡を継ぐ。菊村は清次郎を婿にしたが商売は振るわず、江戸の末に芝へ移った。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日