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ようねんじだい

幼年時代

室生犀星

読了時間
約1時間2分
文字数
30,779字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 実家から一町と離れていない家へ貰われた私は、実の母に会うため毎日のように実家へ通っていた。
  2. 九歳の冬に父が死ぬと、実の母は家を追われて行方が知れなくなる。私は姉と白い犬を頼りに暮らす。
  3. 川で拾った地蔵が縁で隣の寺の養子になった私は、ある秋の日、姉から再び嫁ぐことになったと聞かされる。

登場人物

私
語り手。実家のすぐ近くの家へ貰われた子で、のちに隣の寺の養子になり、そこでは照さんと呼ばれる。
実の母
私を生んだ母。父の小間使だったため、父の死後に父の弟から追い出される。
父
実家の父。六十を越えた武士らしい人で、果樹園の手入れをし、俳句を書いている。
養家の母
私を貰った家の母。叱るときは厳しいが、可愛がりもする。
姉
養家の娘で、嫁ぎ先から戻っている。私とは母が違うが、誰よりも私を可愛がる。
先生
小学校の先生。私を毎日のように居残りにさせ、手を上げることもある。
シロ
父が可愛がっていた純白の犬。父の死後は私になつき、私から離れない。
和尚さん
隣の寺の年老いた住職。子がなく、私を可愛がって養子に迎える。
お孝さん
寺の信者の家の娘で、九つになったばかり。私の部屋によく遊びに来る。

読みどころ

母はなぜ私を他家へやったのか。少年はその答えをもらえないまま、実の母と養家の母、血のつながらない姉、寺の養父のあいだを行き来する。外では喧嘩で恐れられる子が、姉の前では泣き虫に戻る。その両面を飾らずに書き分けているところに、この作品の読みごたえがある。

注目したいのは小学校の居残りの場面だ。教室に立たされた私は、窓から見える屋根瓦の枚数まで覚えてしまう。黒板に姉さんという字を書いては消す姿もある。耐える心の動きが、目に見える物の細部で書かれている。姉が寝床で語る河師の堀武三郎の話のように、加賀の言い伝えが挟まる箇所も読みどころだ。

室生犀星は詩人として名を知られたあと、この作品で小説を書き始めた。大正八年に『中央公論』に発表され、のちの『性に眼覚める頃』『或る少女の死まで』とあわせて自伝的な三部作と呼ばれている。金沢の町と犀川の流れが、少年の目を通してみずみずしく描かれている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

私は和尚さんに望まれ、坊さんにはならない約束で寺の養子になる。寺の暮らしになじみ、信者の娘のお孝さんとは、本堂の裏で一番の仲良しになる約束を交わす。それでも人から姉とよく似ていると言われるたびに、血のつながらないことを思って沈み込む。人のいないときには本堂でひとり手を合わせ、行方の知れない実の母の幸せを祈る。

秋になり、姉は養家の母が決めた相手のもとへ再び嫁ぐことになる。嫌だと言いながらも断れない姉は、晴れ着を着て車に乗り、去っていく。二週間がたっても姉は訪ねて来ず、短い葉書が一枚届いただけだった。

雪晴れの日、私はシロを連れて姉の嫁ぎ先の前へ行き、犬を吠えさせて姉を呼び出す。少しやせた姉は、もうここへ来てはいけないと言い、そのうち自分から会いに行くと指切りをする。寺に戻った私は冬の夜を和尚さんと炉のそばで過ごし、姉と母を思いながら眠れずにいる。十三の冬が暮れかかるところで話は終わる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日