ひのはて
日の果て
- 読了時間
- 約1時間20分
- 文字数
- 39,867字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「思索 秋季号」1947(昭和22)年9月
三行でいうと
- ルソン島のサンホセ盆地に潜む部隊で、宇治中尉は隊長から軍医の花田中尉を射殺せよと命じられる。
- 花田は住民の女と部隊を離れ、召還を拒んでいた。宇治は高城伍長を連れて出発するが、心には逃亡の決意があった。
- 互いを疑いながら二人は密林を進む。宇治は花田への思いを探りつつ、花田のいる部落へ近づいていく。
登場人物
- 宇治
- 大隊で兵器係を務める三十三歳の応召の中尉で、喀血したことを誰にも言わずにいる。
- 花田
- 軍医中尉で、砲撃で脚を負傷したあと女と戦場を離れ、召還に応じずにいる。
- 高城
- 花田の部下の衛生伍長で、最後の使者として花田に会っており、宇治に同行する。
- 隊長
- 宇治の部隊の部隊長で、白髪の増えた再役の老将校。
- 女
- 花田と暮らす住民の女で、右の眼の下に大きな黒子がある。
読みどころ
宇治が受けた命令は、軍医を射殺することだった。しかし宇治はこの機会に逃げるつもりでいる。敗走する部隊の中で、人は何を支えに生きるのか。宇治は「自分のために生きるのが、唯一の真実だ」と考える。けれどもその考えは、一日のうちに何度も揺らぐ。
読むときは宇治と高城の関係に注目したい。宇治は、上官の花田を憎む若い伍長をわざわざ選んで連れて行く。二人は互いを疑い、背中を気にしながら密林を歩く。塩が甘く感じられる飢えや、生きたまま蝿にたかられる兵など、戦場の細部も生々しい。冒頭から何度も出てくる黄色い花にも目を留めておきたい。
梅崎春生は『桜島』で知られる戦後派の作家である。本作はルソン島北部を舞台に、崩れていく部隊の中で揺れ動く一人の将校の内面を、ただ一日の出来事として描いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
崖の道で宇治は高城に、原隊には帰らず東海岸へ行くと打ち明ける。高城は帰ると言って去り、宇治はその背中に拳銃を向けるが撃たない。無人の部落で飢えて死にかけた兵たちに出会ったあと、高城は涙をためて戻ってくる。旅団司令部を見下ろす崖縁では、宇治は拳銃を握り、高城を後ろに従えて歩く。
花田がいたはずの部落に着くと、花田は昼頃に出たあとだった。残っていたのはマニラから逃げてきた男と、気の狂った女である。男に逃げてきた口だろうと言われた宇治は、ウィスキイに酔って高城に男を撃てと命じる。銃声が響くが、高城が撃ったのは女の頭だったと後で分かる。
日暮れの河原で、宇治は水浴から戻る花田を見つける。花田は拳銃を向けるが不発に終わり、宇治が撃つと花田は倒れる。宇治はその直前に、自分がずっと花田に嫉妬していたと気づいていた。続いて女が左手で拳銃を宇治に向ける。宇治は腕を組んだまま動かずに撃たれ、堤の下へ転がり落ちる。高城の呼ぶ声を聞きながら、宇治は意識を失っていく。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日