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がどるふのゆり

ガドルフの百合

宮沢賢治

読了時間
約10分
文字数
4,652字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 旅のガドルフは、十六哩先の次の町を目指して、楊の並木道を朝から歩き続けている。
  2. 夕暮れに激しい雷雨となる。ガドルフは道ばたの大きな黒い家に駆け込むが、中には誰もいない。
  3. 二階を見に行こうとしたとき、稲光に照らされた窓の外から、白いものが五つか六つのぞいていた。

登場人物

ガドルフ
次の町へ向かって街道を歩く旅の者で、背嚢に小さな器械の類を入れている。

読みどころ

筋は短い。雷雨の夜に空き家へ逃げ込んだ旅人が、窓の外の百合を見つめるだけの話である。読みどころは、稲妻が光るたびに一瞬だけ浮かぶ花に、ガドルフが自分の恋を重ねていくところにある。嵐に打たれる百合がどうなるのか、読む人もガドルフと一緒に次の光を待つことになる。

括弧でくくったガドルフの独り言に注目したい。楊がブリキの葉に見え、黒い家の屋根は黒電気石の頭にたとえられる。苛立った頭に浮かぶ像が、そのまま文章になっている。稲妻の下で雨粒が楕円形のまま宙に止まる場面は、一瞬の光景を引き伸ばして描いている。北斎の『山下白雨』を持ち出す比喩もある。

宮沢賢治の生前には発表されなかった童話の一つである。ハックニー馬や哩といった言葉が並び、舞台は日本らしく見えない。電光の色や鉱物の名前を細かく使い分ける文章に、宮沢賢治らしさがよく出ている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

ガドルフが窓を開けて挨拶すると、白いものは嵐の中に咲く十本ばかりの白百合だった。ガドルフは冷たい雨に打たれながら窓から身を乗り出し、次の電光を待って花を見つめる。百合を自分の恋に重ねて、「砕けるなよ。」と念じる。

やがていちばん丈の高い百合が幹を折られ、しのぶぐさの上に倒れた。ガドルフは窓を閉め、敷布と敷物にくるまって階段に腰かける。恋は砕けたと思ううちに眠りかけ、夢を見る。豹の毛皮を着た男と黒ずくめの男が組み合って戦い、坂を転げ落ちてきてガドルフに突き当たる。

目を覚ますと雷は遠のき、雨もやんでいた。一本を除いて嵐に勝ちほこった百合の群れが、電光に白く照らされている。窓の外の雫に映る薔薇色を、ガドルフは南の蝎の赤い光だと考える。雨が晴れたら星明かりの街道へ出て行こうと決め、「おれの百合は勝ったのだ。」と思う。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日