こうやひじり
高野聖
- 読了時間
- 約1時間12分
- 文字数
- 35,693字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
三行でいうと
- 雪の夜、敦賀の古い宿で、若い「私」は道連れの旅僧に、若いころの飛騨の山越えの話を聞く。
- 旅僧は危ない旧道へ入った薬売りを追う。蛇の道と山蛭の降る森を抜けて、山奥の一軒家に着く。
- 一軒家には美しい婦人と足の立たない若者が住む。婦人は旅僧を泊め、崖下の谷川で体を洗ってくれる。
登場人物
- 宗朝
- 高野山に籍を置く旅僧で、若いころの飛騨の山越えを「私」に語る。
- 私
- 若狭へ帰省する途中の若者で、汽車で旅僧と道連れになり、同じ宿に泊まる。
- 婦人
- 飛騨の山奥の一軒家に住む美しい女で、日の暮れに着いた旅僧を泊める。
- 次郎
- 婦人と暮らす若者で、両足が立たず、言葉もほとんど話さない。
- 親仁
- 一軒家に出入りする老人で、その夜、馬を諏訪の馬市へ引いていく。
- 富山の売薬
- 麓の茶屋で旅僧をからかった薬売りで、先に立って旧道へ入っていく。
読みどころ
山奥の一軒家で、旅僧は美しい婦人にもてなされる。婦人は優しいが、どこか人ではないものの気配がある。この不気味さと艶やかさが、読み進める手を止めさせない。修行の身の僧が、迷いながらも人のまま山を出られるか。物語はその一点に向かって進む。
話は二重の枠になっている。雪の宿で「私」が聞き手になり、旅僧が昔の出来事を語る。語りは途中で宿の灯や物音に引き戻され、そのたびに夜の山の話が近くなる。蛇の道と山蛭の森の場面は、肌に触れるように細かく描かれる。谷川の場面で僧が口にする「白桃の花だと思います。」の一言も、後で効いてくる。
泉鏡花の代表作で、明治三十三年に発表された。文語の混じる語り口と漢語の多さに、初めは戸惑うかもしれない。それでも語り手の僧の口調には軽みがあり、慣れると声に出して読みたくなる。鏡花の描く山の怪と女の美しさを知るには、まずこの一編を読むとよい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
親仁が馬を引き出そうとすると、馬は旅僧のほうを向いて動かない。婦人が馬の前で着物を脱ぎ、その腹の下をくぐると、馬はようやく歩き出した。夜更け、一軒家の周りに獣や鳥の気配が集まって家が揺れる。納戸の婦人が「お客様があるよ。」と言い、旅僧が陀羅尼を唱えると、あたりは静まった。
翌朝、旅僧は婦人に道を教わって山を下りる。しかし婦人が忘れられず、修行を捨てて一軒家へ戻ろうと考えていた。そこへ馬を売った帰りの親仁が、大きな鯉を提げて現れる。親仁の話では、薬売りはあの馬に変えられて売られ、その金がこの鯉になった。婦人は十三年前の洪水で村が流されたとき、生き残った医者の娘だった。谷川の水を浴びせた男を、飽きると息をかけて獣に変えるという。
親仁は旅僧に、助かったのは嬢様の情けだと言い、修行を続けるよう告げて山へ帰る。旅僧は里へ駆け下りた。宗朝は話の教えを説かずに、翌朝、雪の降る坂道を登って行く。「私」はその姿を見送る。
読んでみる
青空文庫で無料で読む図書カード:高野聖本で読む
注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。
次に読むなら
公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日