てぶくろをかいに
手袋を買いに
- 読了時間
- 約7分
- 文字数
- 3,493字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 雪を初めて見た子狐が、冷たくなった両手を母さん狐に差し出す。母さん狐は町で毛糸の手袋を買ってやろうと考える。
- 夜、町の灯を見た母さん狐は昔のこわい目を思い出して足がすくむ。子狐の片手を人間の手に変え、一人で町へ行かせる。
- 帽子屋の戸をたたいた子狐は、隙間からもれる光にまごつき、出してはいけないと言われたほうの手を差し入れてしまう。
登場人物
- 子狐
- 雪を初めて見た狐の子で、母さん狐からは坊やと呼ばれ、一人で町へ手袋を買いに行く。
- 母さん狐
- 子狐の母で、昔お友達の狐と町へ出て、お百姓に追いまくられたことがある。
- 帽子屋さん
- 町の帽子屋で、戸の隙間から差し出された手を見て、手袋を求める客の正体に気づく。
読みどころ
人間は本当に恐ろしいものなのか。この短い童話の底には、その問いがある。母さん狐は町でこわい目にあった記憶を持ち、子狐にもそう言い聞かせる。子狐は何も知らないまま、一人で人間の町へ入っていく。二匹の見た人間がどう違うかに注目して読みたい。
子狐の目に映る世界の描き方が美しい。子狐は雪の照り返しを、眼に何かが刺さったと思いこむ。遠くの町の灯を見て「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」と言う。見たことのないものを知っているものにたとえる子狐の言葉が、冬の夜の景色を新しく見せてくれる。母さん狐の足がすくむ場面では、親の心配と子の無邪気さが並んで描かれる。
新美南吉は、狐と人間の物語『ごんぎつね』を書いた童話作家である。本作でも狐と人間の間にある隔たりが描かれる。結びの母さん狐のつぶやきには答えが示されないため、読み終えたあとも考えが残る。子どもに読み聞かせても、大人が一人で読み返しても味わいのある一編だ。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
帽子屋さんは差し出された手を見て、狐が木の葉で買いに来たのだと思う。そこで「先にお金を下さい」と言う。子狐が渡した二つの白銅貨を指先で打ち合わせると、よい音がする。本物のお金だと分かった帽子屋さんは、子供用の毛糸の手袋を子狐に持たせてやる。
帰り道、子狐は人間がどんなものか見たくなる。ある窓の下で、人間のお母さんの子守唄が聞こえてくる。人間の子供が森の子狐を気づかい、お母さんがやさしく答える声を聞く。子狐は急にお母さんが恋しくなり、母さん狐の待つほうへ跳んで帰る。
母さん狐は子狐を胸に抱きしめ、泣きたいほど喜ぶ。月の光の中、二匹は森へ帰っていく。子狐は、本当の手を出したのに帽子屋さんは捕まえなかったと話し、手袋をはめた両手を打ってみせる。母さん狐はあきれたあと、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやく。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日