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ねずみこぞうじろきち

鼠小僧次郎吉

芥川龍之介

読了時間
約25分
文字数
12,259字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 「中央公論」1920(大正9)年1月

三行でいうと

  1. 初秋の日暮れ、汐留の船宿の二階で遊び人の二人が酒を酌み交わし、鼠小僧の噂を始める。
  2. 三年ぶりに江戸へ帰った親分は、江戸を離れた冬に甲州街道で道連れになった男の話を語りだす。
  3. 八王子の旅籠で道連れの正体が胡麻の蠅と分かり、縛られた男は宿の者たちに悪事を並べ立てる。

登場人物

親分
唐桟の半天を羽織った色の浅黒い男で、三年ぶりに江戸へ帰ってきた。
裸松
手首まで剳青のある小柄な男で、鼠小僧の心意気を贔屓にしている。
越後屋重吉
深川六間堀の小間物渡世と名乗り、甲州街道で親分の道連れになる男。
勘太
横山宿の馬子で、三年前の大夕立に雷獣を手捕りにしたと言い張る。
番頭
八王子の旅籠山甚の番頭で、薬罐頭をしている。

読みどころ

この作品の芯には、名前ひとつで人の扱いが変わる世間のおかしさがある。大名屋敷から盗んで貧乏人に施すと噂された鼠小僧を、遊び人たちは懐かしがる。親分は「国に盗賊、家に鼠だ。」と言いながらも、その鼠小僧にまつわる茶番を語りだす。

話の大部分は、親分が江戸ことばで一人で語る形で進む。雪の甲州街道や八王子の旅籠の土間が、啖呵や軽口と一緒に目に浮かぶ。梯子の中段で足を止めた親分が、下の騒ぎを眺める場面に注目したい。話の前後に置かれた船宿の場面も、語り手を見るうえで読み落とせない。

芥川龍之介は『戯作三昧』など、江戸を舞台にした作品も書いている。本作は江戸の義賊として名高い鼠小僧の名を借りた短編で、末尾には大正八年十二月と記されている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

重吉は庄屋への押し込みや金飛脚殺し、母親殺しまで自分の仕業だと言い張る。宿の者たちは次第に重吉へ丁寧になる。番頭に鼠小僧はお前の渾名かと問われ、重吉はそうだと認める。宿の者たちは重吉をちやほやし、番頭は桝で酒まで飲ませる。親分は、大泥棒には頭を下げて小盗人にはむごい世間を可笑しく思う。

早立ちの勘定を頼んだ親分は、鼠小僧と名乗れば獄門か磔は逃れられないと重吉に言う。重吉はたちまち、唯の胡麻の蠅だと白状する。並べた悪事も街道の噂を使った作り話だった。秋に女房に逃げられて不運が続き、盗みは今夜が初めての出来心だったと言う。怒った馬子と若い者は重吉を引き倒し、重吉は頭まで瘤だらけになる。

話を聞いた小柄な男は、鼠小僧の名をかたった男に腹を立てる。親分は、鼠小僧と名乗ったおかげで大きな顔ができたのだから鼠小僧も本望だろうと笑う。そして三年前に江戸で噂の高かった鼠小僧は「この和泉屋の次郎吉の事だ。」と明かす。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日