きせつのないまち
季節のない街
- 読了時間
- 約6時間41分
- 文字数
- 200,273字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
三行でいうと
- 目に見えない市電を毎日運転する六ちゃんが、どぶ川を越えて貧しい長屋の街へ猫を送り届ける。
- 街には陽気な島さんと無愛想な妻、細工仕事をする半助、兄に貯金を狙われる岡田辰弥らが暮らす。
- 乞食同様の父子は空想の家の話を重ね、働き者の少女かつ子は伯父の家で少しずつ追い詰められていく。
登場人物
- 六ちゃん
- 中通りに母と二人で住み、目に見えない市電を毎日運転している。
- おくにさん
- 六ちゃんの母で、精進揚げの店を営み、毎晩仏壇の前でお題目をとなえる。
- 島悠吉
- 片足が短く顔に痙攣の持病があり、誰にでも愛想よく接する。
- 半助
- 猫のとらと暮らし、人とは口をきかずに家で細工仕事をしている。
- 岡田辰弥
- 十九歳で五人家族を支え、新聞社に勤めながら英語学校に通う。
- たんば老人
- 街の人々が困ったときに相談に訪れる老人で、彫金師を名のる。
- 寒藤清郷
- 憂国塾の塾頭を名のり、大ビスマルクの言葉を口癖にしている。
- 沢上良太郎
- 腕のいい刷毛職人で、家事もこなしながら五人の子供を育てている。
- かつ子
- 伯父夫婦に育てられた十五歳の少女で、休みなく内職と家事を続ける。
- 平さん
- 空き地の小屋で独り暮らし、ぼろ布からマットレスを編んで売っている。
読みどころ
貧しい長屋の街に住む人々を、一話ずつ描いた連作である。どの話にも大きな事件は少ない。人々はみえや怠け、思い込みを抱えたまま、その日その日を生きている。笑える話と目をそむけたくなる話が、同じ街の隣どうしに並んでいる。
読むときは語り手の距離に注目したい。語り手は住人を裁かず、かみさんたちの噂話を交えて淡々と伝える。その語りが一度だけ崩れる場面がある。病気の子を寝かせたままの父親に、語り手が「さあきみ、すぐにその子を抱いて医者へゆきたまえ」と呼びかけるところである。前の話の人物が別の話にふと顔を出すので、街の地図を頭に描きながら読むとよい。
山本周五郎はあとがきで、前の年に『青べか物語』をまとめたことにふれている。そして本作を都会の『青べか物語』と呼び、登場する人物も出来事も自分の目で見たものだと書いている。黒澤明監督の映画『どですかでん』の原作でもある。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
半助は三人の男に連れ去られ、二度と街へ戻らない。辰弥の兄は車にはねられて病院へ運ばれる。兄の持ち物の中に自分の貯金通帳を見つけた辰弥に、母は通帳を兄に渡したと明かし、辰弥を薄情だと責める。増田と河口の二組の夫婦は酒の勢いで相手を取り替えて暮らし始める。やがて酔った夜をきっかけに、何事もなかったように元の組み合わせへ戻る。
乞食同様の父子の子供は、しめ鯖を食べたあとに下痢を患う。医者にかかれないまま、子供は「忘れてたけどさ、プールを作ろうよ」と言い残して死ぬ。父親は墓地の空き地へ通い、雨の中でプールの話を続ける。平さんの小屋には過去にわけのある女が来て許しを乞う。平さんは一言も答えず、女は十二日目に去る。寒藤先生の塾生八田は、治助の妻おはちと駆け落ちする。
かつ子は夜中に伯父の京太に迫られたのち身ごもる。そして親切にしてくれた酒屋の小僧の岡部を、出刃庖丁で刺す。京太は警察に呼ばれると、前借りした金を持って姿を消す。家に戻ったかつ子は岡部に、死ぬつもりだったが忘れられるのが怖かったと打ち明ける。倹約を重ねた塩山家では三人の娘と妻が次々に死ぬ。最後の章では、たんばさんを頼りに眠る街を冷たい星が見下ろしている。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日