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さるがしま

猿ヶ島

太宰治

読了時間
約12分
文字数
5,721字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「文學界」1935(昭和10)年9月号

三行でいうと

  1. 長い旅に疲れた語り手は、海を越えて霧深い島に着き、岩山の枯れ木に登って枝を折ってしまう。
  2. 木の持ち主だという猿が現れ、同じ故郷の生まれだと言って、語り手を自分の場所に迎え入れる。
  3. 霧が晴れると青葉の並木と大勢の人間が見え、語り手は塀から島を覗く二人の子供の言葉が気になる。

登場人物

私
日本の中部の山奥で生まれた猿で、山で捕われ、狭い箱に入れられて海を渡り、この島に着いた。
彼
日本の北方の海峡ちかくで生まれた猿で、春から島にいて、滝口の枯れ木のそばを自分の場所にしている。

読みどころ

この短編が描くのは、知らない場所に連れてこられた者が自分の立場をどう知り、どう受け止めるかである。日の当たる場所と食べ物が約束された暮らしにとどまるか、何の保証もない外へ出るか。語り手が最後に抱える迷いは、読み手にも向けられている。

語り手は霧の中で島をめぐり、島の姿を少しずつ知っていく。霧が晴れていくのに合わせて、読み手にも島の様子が見えてくる。先にいた猿は人間を一人ずつ皮肉って長々と語る。語り手がそれを上の空で聞きながら、何を見つめているかに注目したい。木に登るたびに聞こえる、ひらがなの短い歌も話の要所に置かれている。

太宰治の第一創作集『晩年』に収められた短編である。語り手の正体や島のありかは、話の中で少しずつ明かされる。最後の短い一段落まで読むと、それまでの場面が違って見えてくる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

私に問い詰められた彼は、しばらくためらってから、子供たちは「いつ来て見ても変らない、とほざいたのだよ。」と明かす。私はこの言葉で、見せ物は自分たちのほうだと悟る。彼は人間の見せ物だと言って私をごまかしていた。嘘をついた理由を彼は「ふびんだったから。」と答える。私は彼の胸にしがみつき、自分の無知を恥じる。彼は、塀の上の札には日本の猿のことが書かれているのだろうと話す。

私は枯れ木の梢に登り、日向ぼっこをする百匹ほどの猿を見渡す。そして「みんな知らないのか。」と尋ねる。知っているのはおそらく自分たち二匹だけだと彼は答え、逃げるつもりかと聞き返す。私が逃げると言うと、彼は「こわくないか。」と口にする。さらに、日が当たり木があり、水の音が聞こえて食べ物の心配もいらないと、降りてくるよう誘う。私の心は大きく揺れるが、山で育った血が「否!」と叫ぶ。

最後の一段落で場面が変わる。一八九六年六月の半ばに、ロンドン博物館附属動物園の事務所へ日本猿が逃げたと知らせが届く。逃げたのは一匹ではなく、二匹だった。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日