このページには広告(Amazonの商品リンク)が含まれます。

せいかぞく

聖家族

堀辰雄

読了時間
約32分
文字数
15,759字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 九鬼の告別式の日、気分を悪くした細木夫人を一人の青年が助ける。九鬼にかわいがられていた河野扁理だった。
  2. 扁理は細木家を訪ね、夫人の娘の絹子と出会う。二人は少しずつ惹かれ合うが、どちらもその気持ちに気づかない。
  3. 扁理はカジノの踊り子と付き合い、細木家から遠ざかる。母娘は公園で、踊り子と歩く扁理の姿を見てしまう。

登場人物

河野扁理
二十歳の青年で、十五のとき九鬼に連れられて軽井沢のホテルで細木夫人に会っている。
細木夫人
未亡人で、九鬼の告別式へ向かう途中に気分を悪くし、扁理に助けられる。
絹子
細木夫人の娘で十七歳。扁理への気持ちを自分では認めようとしない。
九鬼
物語の始まりで告別式が行われる人物で、扁理をかわいがっていた。
斯波
扁理の知人で、細木家を訪れて扁理が踊り子に引っかかっていると話す。
踊り子
カジノの踊り子で、扁理を待ちぼうけさせては気を引こうとする。

読みどころ

一人の男の死が、残された者たちを引き寄せる。九鬼を愛した夫人、九鬼に育てられた青年、そして夫人の娘の三人だ。三人とも相手に惹かれながら、その気持ちを別の理由に置き換えてしまう。退屈のせい、頭痛のせい、硝子のゆがみのせいにする。自分の心が見えない人々の、静かな恋の物語である。

語り手は人物の内側に入り、本人が気づいていない心の動きを先に言い当てていく。この語り方に注目して読むとよい。夫人が扁理を見て思う「まるで九鬼を裏がえしにしたような青年だ」の一言は、作品全体を通る鍵になる。ダイアモンドと硝子のたとえや、夢に出てくるラファエロの画集も、題名につながる大事な場面である。

堀辰雄が1930年に『改造』に発表した初期の代表作だ。師の芥川龍之介の死が背景にあるとされる。のちの『風立ちぬ』へ続く、死を見つめて生をとらえ直す作風がここで始まっている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

斯波が来てしばらくした晩、扁理が細木家を訪れる。髪は乱れ、顔は青い。扁理は一年ほど旅行に出ると告げる。夫人は扁理の様子に踊り子の影響を見る。絹子は同じ姿に、自分のために苦しむ青年の痛々しさだけを見る。汽車の中で、扁理の目にはラファエロの天使のような少女の顔が大きくなっていく。扁理は小さな海辺の町でふいに降りる。町のあらゆるものに死の暗号を感じ、死んだ九鬼が自分の裏側で生きていると悟る。そして浜で小さな犬の死骸が波にもまれるのを見つめ、自分の心臓の鼓動を感じ始める。

扁理が発ったあと、絹子は病気になり、ようやく扁理への愛を認める。夫人が扁理から届いた海の絵はがきを持ってくると、絹子は「河野さんは死ぬんじゃなくって?」と母に問う。そのこわい眼つきに、夫人は若いころの自分を見る。娘が扁理を愛していると悟り、自分の中で眠っていた女らしい感情も目ざめるのを感じる。

それでも夫人は母としての務めを取り戻し、微笑して答える。九鬼が憑いているかもしれないが、そのためにかえって扁理は救われるのではないか。絹子は苦しげに母の顔を見上げる。その眼ざしは次第に、古い絵の中で聖母を見上げる幼児のものに似ていく。

読んでみる

青空文庫で無料で読む図書カード:聖家族

本で読む

注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。

次に読むなら

公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日