いなかきょうし
田舎教師
- 読了時間
- 約5時間1分
- 文字数
- 150,172字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「田舎教師」佐久良書房、1909(明治42)年10月
三行でいうと
- 中学を出た林清三は、家が貧しく進学をあきらめ、弥勒の村の小学校に教員として赴任する。
- 友人たちが東京の学校へ進むなか、清三がひそかに思う美穂子と親友の郁治が心を通わせていく。
- 詩作も音楽学校の受験も実らず、遊廓に通う日々を経た清三は、生活を立て直そうと日記を書き直す。
登場人物
- 林清三
- 行田に住む中学の卒業生で、家の暮らしを助けるため弥勒の小学校に勤める。
- 加藤郁治
- 清三の親友で、父は郡視学を務め、高等師範への進学を目指す。
- 美穂子
- 北川の妹で浦和の学校の寄宿舎で暮らし、清三と郁治がともに思いを寄せる。
- 荻生秀之助
- 羽生の郵便局に勤める友人で、清三の身の回りを親身に世話し続ける。
- 山形古城
- 羽生の成願寺の住職で新体詩で知られ、清三に本堂の一間を貸す。
- 小畑
- 熊谷に住む中学時代の友人で、手紙を通して清三を励まし続ける。
- 田原ひで
- 清三が教えた生徒で、卒業後に浦和の師範学校へ進む。
読みどころ
清三は東京へ出て学びたいと願いながら、貧しい家と母を思って田舎の小学校に勤める。友人たちは高等師範や高等学校へ進み、手紙で近況を知らせてくる。それを読むたびに、清三は自分だけが取り残される思いを強める。同僚の暮らしぶりを見て、清三は「まごまごしていれば、自分もこうなってしまうんだ!」と胸の内で叫ぶ。思うように生きられない若者の焦りと諦めが、この作品の中心にある。
読むときは、四季とともに移る関東平野の描写に注目したい。麦畑や利根川の土手、赤城おろしの冷たさが、清三の心の動きと重なって描かれる。作中にはたびたび清三の日記が引かれ、文語の日記を通して心の変化をたどることができる。中ごろには「運命に従ふものを勇者といふ」という一行が書きつけられる。そこへ至るまでの揺れを、本文と日記の両方から追うと読みやすい。
田山花袋は、日本の自然主義文学を代表する作家の一人である。この作品は明治42年に刊行され、実在した青年教員の日記をもとに書かれた。劇的な事件はほとんど起こらない。それでも、一人の平凡な青年が過ごした数年間を細やかに描き、明治の地方に生きた若者の姿を伝えている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
清三は日記を再開し、植物の採集やテニスで体を立て直そうとする。しかし胃腸の不調と寝汗は続く。やがて日露戦争が始まり、一家は行田から羽生へ移り住む。医師を変えても病は治らず、足に腫れが出る。行田の医師に診てもらうと、肺が両方とも悪くなっていると告げられる。
遼陽占領の知らせに清三は喜ぶが、戦地へ行けず床に伏す身を嘆く。町が遼陽占領の祭りで提灯行列に沸く夜、清三は息を引き取る。荻生は危篤の知らせを受けて駆けつけたが、間に合わなかった。葬式は費用を抑えるため、翌日の夜遅くに成願寺でひっそりと営まれる。
一年ほどして、荻生と郁治の奔走で墓石が建つ。金を出した人の中には美穂子や雪子もいた。母親は季節ごとに花を供え続ける。ある秋、女学生らしい娘が墓の前で長く泣いていたと和尚は聞く。娘はかつて清三が弥勒で教えた生徒で、のちに羽生の小学校の女教員になる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日