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やぶのなか

藪の中

芥川龍之介

読了時間
約17分
文字数
8,401字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新潮」1922(大正11)年1月

三行でいうと

  1. 山科の藪の中で、旅の侍の死骸が見つかる。検非違使は木樵りや旅法師から順に話を聞いていく。
  2. 捕らえられた盗人の多襄丸は、男を殺したのは自分だと白状する。連れの女の行方はわからない。
  3. やがて清水寺に来た女と、巫女の口を借りた死霊も語り出す。三人の話は少しずつ食い違っていく。

登場人物

多襄丸
洛中で名の知れた盗人で、粟田口の石橋の上で呻っているところを放免に捕らえられる。
金沢の武弘
若狭の国府の侍で、年は二十六歳。藪の中で死骸となって見つかる。
真砂
武弘の妻で、年は十九歳。母は男にも劣らない勝気の女だと語る。
木樵り
裏山へ杉を伐りに行き、藪の中で死骸を見つける。
旅法師
前日の午頃に、馬に乗った女と連れ立って歩く武弘に出会っている。
放免
多襄丸を捕らえ、その持ち物は死んだ男の物だろうと述べる。
媼
真砂の母で、娘の行方を探してほしいと泣いて頼む。

読みどころ

藪の中で一人の侍が死んだ。死骸は見つかったが、誰がどう殺したのかははっきりしない。同じ出来事を見たはずの三人が、それぞれ違う話をする。読み手は、どの言葉を信じればよいのかを最後まで自分で考えることになる。

全体は、検非違使の前で語られた証言を並べた形をとる。問う側の言葉は書かれていない。それでも答えの中にある「何、馬はいなかったか?」のような言い返しから、何を問われたのかが見えてくる。語りの合間には(皮肉なる微笑)のような短い書き添えが入る。話す者の顔つきが目に浮かぶので、その表情にも気をつけて読みたい。

芥川龍之介は、平安時代の説話に題材をとった短編を多く書いた。この作品もその一つで、『今昔物語集』の話をもとにしている。黒澤明の映画『羅生門』は、この作品を下敷きにしている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

多襄丸の白状では、古塚の宝を売ると持ちかけて夫婦を藪へ誘い、男を杉の根に縛って女を手ごめにした。女は、二人の男のどちらか一人が死んでくれと縋りつき、生き残った男に連れ添いたいと言う。多襄丸は男の縄を解いて太刀打ちをし、二十三合目に胸を貫いた。振り返ると女は消えていた。多襄丸は極刑を望む。

清水寺に来た女の懺悔は違う。手ごめにされたあと、縛られた夫の眼に自分を蔑む冷たい光を見て、女は気を失う。目覚めると盗人はいなかった。共に死のうと迫ると、夫の唇は「殺せ。」と動いた。女は小刀で夫の胸を刺したが、自分はどうしても死に切れなかったと泣き崩れる。

巫女の口を借りた夫の死霊は、また別の話をする。妻は盗人に「ではどこへでもつれて行って下さい。」と答え、「あの人を殺して下さい。」と叫んだ。盗人は妻を蹴倒し、殺すか助けるかを夫に問う。その隙に妻は藪の奥へ逃げ、盗人も縄を一箇所切って去った。夫は落ちていた小刀で自分の胸を刺す。誰かが忍び足で近づいて胸の小刀を抜き、夫は中有の闇へ沈んでいく。どの話が本当なのかは、最後まで明かされない。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日