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ろくのみやのひめぎみ

六の宮の姫君

芥川龍之介

読了時間
約12分
文字数
5,806字
読みやすさ
ふつう
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 「表現」1922(大正11)年8月

三行でいうと

  1. 昔気質の父母に大切に育てられた姫君は、両親を相次いで亡くし、乳母だけを頼りに古い屋形で暮らしていく。
  2. 暮らしに困った乳母のすすめで、姫君は丹波の前司なにがしの殿と夜毎に会うようになり、屋形にも華やぎが戻る。
  3. やがて男は父が陸奥の守に任ぜられたため奥へ下ることになり、五年たてば戻ると言い残して姫君のもとを去る。

登場人物

六の宮の姫君
古い宮腹の生まれの父と母を亡くし、琴や歌に日を送りながら、なりゆきに身を任せて生きる。
乳母
姫君のために骨身を惜しまず働き、暮らしを立てるために縁談を二度持ちかける。
男
丹波の前司なにがしの殿と呼ばれ、やさしい心の持ち主で、父の任官に従って都を離れる。
常陸の妻
男の父の目がねにかなった、その国の守の娘で、男の新しい妻になる。
法師
朱雀門の曲殿で雨止みを待っていた物乞いらしい法師で、姫君に念仏を勧める。
侍
朱雀門のほとりで女の泣き声がするといううわさを、法師に尋ねる。

読みどころ

姫君は自分から何かを選ぶことがほとんどない。両親が亡くなったあとも、乳母に縁談を持ちかけられても、泣きはするが流れに逆らわない。悲しみも喜びも少ない暮らしの中で、「なりゆきに任せる外はない」と思いながら生きる。そういう生き方がどこへたどり着くのかが、この短編の中心にある問いである。

読むときは、同じ形をした場面の繰り返しに目を留めたい。乳母が姫君の前へ出て、考え考え話を切り出す場面は二度ある。一度目と二度目で、姫君の受け止め方がどう違うかを比べると、その間の年月の重さが分かる。男が語る大江山の話の「年は八歳、命は自害」という一言も、宿命というものの気味悪さを先に見せている。都の姫君と、遠い国で新しい妻と暮らす男を同じ時刻に並べる書き方も効いている。

芥川龍之介が大正十一年に書いた作品で、平安時代の説話集『今昔物語集』の話をもとにしている。古い説話の筋を借りながら、運命に流される女の内面を細かく描いた。旧仮名づかいで官職名などの古い言葉も出てくるが、短い作品なので筋は追いやすい。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

六年目の春になっても男は都へ帰らなかった。召使いは一人残らず去り、姫君の住む東の対も大風で倒れた。姫君は乳母と侍の廊に移り、ひどく貧しい暮らしの中で男を待ち続ける。その秋、乳母は男のことは忘れるよう言い、典薬之助との話を持ちかける。姫君は「唯静かに老い朽ちたい」と思うだけで、これを断る。同じ時刻、男は常陸の国の屋形で新しい妻と酒を飲みながら、ふと姫君の姿を胸に浮かべていた。

九年目の晩秋、男は京へ戻ってすぐ六の宮を訪ねる。屋形は跡形もなく、崩れ残りの築土だけが残っていた。かつての召使いの母である老尼に会うが、姫君の行方は分からない。男は洛中を探し歩く。ある夕ぐれ、むら雨を避けた朱雀門の曲殿で、破れ筵の上に痩せ衰えて横たわる姫君と、介抱する乳母を見つける。歌を詠む声を聞いて男が名を呼ぶと、姫君は男を見るなり俯伏してしまう。

乳母は居合わせた法師に経を頼むが、法師は自ら阿弥陀仏の名を唱えるよう姫君に言う。姫君は男に抱かれて念仏を唱えながら、火の燃える車や金色の蓮華が見えると言い、最後は「暗い中に風ばかり」と繰り返して息を引き取る。何日か後の月夜、曲殿にいた法師に侍が女の泣き声のうわさを尋ねる。法師が「お聞きなされ」と答えると、どこからか女の歎く声が聞こえてくる。法師はそれを極楽も地獄も知らない女の魂だと言い、念仏を勧める。侍はその法師が、空也上人の弟子で高徳の沙門である内記の上人、慶滋の保胤だと気づいて両手をつく。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日