いもがゆ
芋粥
- 読了時間
- 約30分
- 文字数
- 14,508字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字旧仮名
初出: 「新小説」1916(大正5)年9月
三行でいうと
- 摂政藤原基経に仕える五位は、風采が上がらないせいで、同僚からも下役からも軽んじられている。
- 五位の唯一の望みは芋粥に飽きることだ。正月の宴でそれを漏らすと、藤原利仁が飽かせてやると言い出す。
- 東山の湯へ行こうと誘われた五位は、行き先を明かされないまま、越前の敦賀まで連れて行かれる。
登場人物
- 五位
- 摂政藤原基経に仕える四十過ぎの侍で、赤鼻のさえない風采のため周りから軽んじられている。
- 藤原利仁
- 民部卿時長の子で、敦賀の藤原有仁の女婿になっている大柄な武人である。
- 有仁
- 敦賀に住む利仁の舅で、朝飯の席で五位に芋粥をしきりに勧める。
読みどころ
長いあいだ抱いてきた望みがかなうとき、人は本当に満たされるのか。この作品はその問いを、一杯の粥を通して描いている。五位は誰からも軽んじられながら、芋粥を飽きるほど飲みたいと願って生きてきた。その願いが思いがけず手の届くところに来たとき、五位の心がどう動くかを追ってほしい。
語り手がときどき顔を出し、読者に話しかけながら平安朝の話を進める語り口に注目したい。同僚にからかわれた五位が「いけぬのう、お身たちは。」と言う場面では、ある若い侍の見方が変わる。利仁が野で狐を捕らえて言づけを頼む場面は、旅の心細さと滑稽さが入り混じって印象に残る。
芥川龍之介が今昔物語集などに伝わる説話をもとに書いた初期の短編だ。原文の末尾には大正五年八月と記されている。古典の筋を借りながら、主人公の心の揺れを近代の小説として掘り下げている点が読みどころになる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
道中、利仁は野で狐を手捕りにし、敦賀の館へ迎えを寄こすよう言いつけて放す。翌日、一行が高島の辺りに着くと、鞍置馬を牽いた男たちが待っていた。前の晩に利仁の奥方が急に正気を失い、狐の言づけと同じことを口にしたのだった。
館に泊まった夜、五位はあまり早く芋粥にありつきたくないと感じ、落ち着かない。翌朝の広庭には、切口三寸、長さ五尺の山の芋が軒に届くほど積まれていた。大釜で芋粥が煮られる騒ぎを見ただけで、五位の食欲は半ば失せてしまう。
朝飯の席で、五位は銀の提に満ちた芋粥をいやいや飲むが、提の半分を空けたところで限界になる。有仁がなおも勧めていると、利仁が軒に座っている狐を指さし、狐にも芋粥が振る舞われる。それを眺めながら、五位は芋粥に飽きたい望みを一人で大事に守っていた、以前の自分を懐かしく振り返る。そして寒い朝の風のなか、銀の提に向かって大きなくしゃみをする。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日