うしをつないだつばきのき
牛をつないだ椿の木
- 読了時間
- 約18分
- 文字数
- 8,970字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「少國民文化」1943(昭和18)年6月
三行でいうと
- 牛曳きの利助さんは山道の椿の若木に牛をつなぎ、葉を食べさせてしまう。土地の地主にひどく叱られる。
- 人力曳きの海蔵さんは、道ばたに井戸があればと考える。三十円で掘れると知り、利助さんに頼むが断られる。
- 喜捨を集める箱も空のままだった。菓子を断って二年でお金をためたが、地主が井戸を掘らせてくれない。
登場人物
- 海蔵さん
- 人力曳き。年とったお母さんと二人で暮らし、百姓仕事もしている。
- 利助さん
- 牛曳き。山林でお金を儲けたと噂されるが、井戸のお金を出すことは断る。
- お母さん
- 海蔵さんの年とった母。夕飯のときに、その日の出来事を海蔵さんと話しあう。
- 地主
- 半田の町に住む年とった地主で、しんたのむねのあたりの土地を持っている。
- 新五郎
- 井戸掘りで、井戸新さんと呼ばれる。ふつうの井戸なら三十円で掘れると教える。
- 源さん
- 海蔵さんの人力曳き仲間。茶店で金平糖を投げて口で受ける遊びをする。
読みどころ
人のためになる仕事を、自分の力だけでやりとげられるか。この話はその問いをひとりの人力曳きに背負わせる。海蔵さんは偉い人でも金持ちでもない。山の清水が道から遠いという、皆がこぼすだけの不便を本気で何とかしようとする。
注目したいのは、海蔵さんがお金をためる茶店の場面である。仲間が菓子をつまむなか、海蔵さんは手を出さずにこらえる。得意な金平糖の遊びにも加わらず、奥歯が痛いとごまかす。小さな我慢の積み重ねが、ユーモアをまじえて丁寧に描かれる。冒頭と結びで繰り返される清水の話にも目をとめたい。
作者は『ごんぎつね』『手袋を買いに』の新美南吉だ。舞台に出る半田や大野は、南吉の故郷の知多半島の地名である。土地の言葉で交わされる会話が、村の暮らしを近くに感じさせる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
地主はしゃっくりが止まらずに寝込み、死んでも井戸は許さないと言う。帰りぎわに息子が、自分の代になれば許すと海蔵さんに約束する。海蔵さんは老人がもうすぐ死ぬと喜ぶ。しかしお母さんに「お前は、じぶんの仕事のことばかり考えていて、悪い心になっただな。」と言われ、はっとする。
次の朝、海蔵さんは地主の枕もとで謝る。人の死を待ちのぞんだことをわび、井戸はあきらめるので死なないでほしいと頼む。老人は長く黙ったあと、海蔵さんの心に動かされたと言う。そして井戸を掘らせ、足りない費用も出すと遺言しておくと約束する。
春の末、椿の向かいに新しい井戸ができる。兵士になった海蔵さんは、日露戦争へ向かう行列の先頭でその前に立ち止まる。子供が水を飲むのを見届け、自分も一杯飲んで町の方へ坂をのぼっていく。海蔵さんは戦争で死に、帰って来なかった。椿の木かげの井戸の水はいまも湧き、道に疲れた人々をうるおしている。
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青空文庫で無料で読む図書カード:牛をつないだ椿の木本で読む
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日