かんざんじっとく
寒山拾得
- 読了時間
- 約13分
- 文字数
- 6,132字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 唐の官吏の閭丘胤は、台州へ旅立つ前に頭痛に悩み、門に来た乞食坊主に水を吹きかけられて治る。
- 僧は豊干と名のり、国清寺の拾得は普賢、寒巌の寒山は文殊だと言い残して去る。閭は着任後に寺へ向かう。
- 寺の僧の道翹から豊干が虎に騎って帰った話を聞き、閭は寒山と拾得のいる厨へ案内してもらう。
登場人物
- 閭丘胤
- 台州の主簿に任じられた官吏で、仏典も老子も読んだことはないが、僧侶や道士を理由もなく尊敬している。
- 豊干
- 閭の頭痛を咒で治した背の高い僧で、国清寺では僧の食べる米を舂いていた。
- 拾得
- 豊干が松林から拾って帰った捨て子で、今は国清寺の厨で僧の食器を洗っている。
- 寒山
- 寺の西にある寒巌という石窟に住み、拾得が取っておく残りの飯や菜をもらいに来る。
- 道翹
- 国清寺で閭を出迎え、豊干のいた僧院や厨へ案内する僧。
読みどころ
この作品は、自分に分からないものを敬うとはどういうことかを問いかける。語り手は話の途中で筋を止め、道に対する人の態度を三通りに分けてみせる。道を顧みない人、道を求める人、そしてその中間の人である。中間の人が抱く敬いを、語り手は「盲目の尊敬」と呼ぶ。閭がどこに入るかを考えながら読むと、結末の笑い声の意味が変わってくる。
語り口にも注目したい。冒頭で語り手は、閭という人は実在しなかったかもしれないと言っておいて、話が成り立たないからいたことにする。頭痛が治る場面では、咒が効いたのではない。閭の気が水に取られて頭痛を取り逃がしたのだと、種を明かしてしまう。寺へ向かう閭の得意げな心持ちや、寒山と拾得の正体に迷う閭を田舎者の芝居見物にたとえるところには、乾いた可笑しみがある。
寒山と拾得は唐の伝説に出てくる二人の僧で、禅画の題材として古くから描かれてきた。森鷗外は晩年に、史実や伝説に材を取った短い作品を多く書いた。本作もその一つで、原文の末尾には大正五年一月と記されている。短いので、ほかの歴史小説より先に読む一本にも向く。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
湯気のこもった厨に入ると、道翹が奥へ向かって拾得を呼ぶ。一番遠い竈の前で、二人の僧がうずくまって火に当たっていた。どちらも痩せたみすぼらしい小男で、豊干のような大男ではない。頭を剥き出した方は振り向いてにやりと笑うが返事はせず、帽をかぶった方は身動きもしない。
閭は二人に進み寄り、うやうやしく礼をして、官職を連ねた長い名のりをする。二人は閭を一目見てから顔を見合わせ、腹の底から笑い声を出す。そして一緒に立ち上がり、厨を駆け出して逃げてしまう。逃げるときに寒山が「豊干がしゃべったな」と言ったのが聞こえた。
驚いて見送る閭のまわりに、飯や汁を盛っていた僧たちがぞろぞろと集まってくる。道翹は真っ青な顔で立ちすくんでいた。話はそこで終わる。
読んでみる
青空文庫で無料で読む図書カード:寒山拾得本で読む
注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。
次に読むなら
公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日