がらすどのうち
硝子戸の中
- 読了時間
- 約1時間45分
- 文字数
- 52,388字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「朝日新聞」1915(大正4)年1月13日~2月23日
三行でいうと
- 風邪で書斎にこもる作家が、硝子戸の中で見聞きした小さな出来事を新聞に書きつづっていく。
- 手を入れて笑顔にされた写真や飼い犬ヘクトーの死、身の上を打ち明けに来た女の話が語られる。
- やがて筆は生家のあった馬場下の町並みや、十三四で亡くした母と兄たちの思い出へさかのぼる。
登場人物
- 私
- 胃の病を抱え、書斎の硝子戸の中に坐ってこの文章を書いている。
- ヘクトー
- Hさんから貰った犬で、イリアッドに出てくるトロイの勇将の名を付けられた。
- O
- 高等学校の頃の友人で、今は樺太で中学校長をしている。
- 岩崎
- 播州の坂越に住む男で、短冊に句を書けと何度も催促してくる。
- 喜いちゃん
- 小学校の頃の友達で、太田南畝の自筆という写本を売りに来る。
- 千枝
- 私の母で、大きな眼鏡をかけて裁縫をしている姿で記憶されている。
読みどころ
病のために書斎の硝子戸の中から動けない作家が、訪ねてくる人や昔の記憶を一つずつ書きとめた随筆である。笑い話のような出来事のそばに、生と死の問いが静かに置かれている。死を生より尊いと考えながら、人には生きよと言うほかない。作者はその迷いを隠さずに書いている。
注目したいのは、身の上を打ち明けに来た女を夜道で送っていく場面だ。曲り角ごとの短いやりとりが、次の章で生と死についての考えにつながっていく。後半は筆が幼いころへさかのぼる。両親を祖父母と思って暮らしていた日々や、下女の耳打ちの記憶が淡々とした筆で語られる。短い章が続くので、少しずつ読み進められる。
夏目漱石が1915年に『朝日新聞』に連載した随筆である。養子に出された生い立ちや母の思い出を本人が語っていて、漱石の人となりを知る手がかりになる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
後半の章では生まれた家のことが語られる。父は町に喜久井町と名を付け、家の前の坂に夏目の姓を付けた。その家は下宿屋の看板を掲げたのち、取り壊されてしまう。里子や養子に出された幼い日々や、母の眼鏡と帷子の記憶も続く。
昼寝の夢でうなされて母を呼ぶと、母は「心配しないでも好いよ。御母さんがいくらでも御金を出して上げるから」と言ってくれた。それが夢か本当か、私には今も分からない。
最後の章は日曜の朝である。庭で鶯が鳴き、私は春が来たことに気づく。これまで書いたものを振り返り、自分の欠点は書かずにすませたと認める。懺悔ではないと言いながら、書いた自分を他人のように見渡して微笑する。硝子戸を開け放って稿を書き終え、縁側で一眠りするつもりだと結ばれる。
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青空文庫で無料で読む図書カード:硝子戸の中本で読む
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日