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みちくさ

道草

夏目漱石

読了時間
約4時間50分
文字数
144,592字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「朝日新聞」1915(大正4)年6月3日〜9月14日

三行でいうと

  1. 外国から帰り駒込に世帯を持った健三は、雨の日の道で、縁を切ったはずの昔の養父の島田に出会う。
  2. 島田は使いの男を通して元通りの付き合いを求め、家に通い始める。健三は細君とも打ち解けられずにいる。
  3. 島田の無心は次第に重くなり、昔の養母の御常も訪ねてくる。細君の出産と義父の窮状も健三を追い詰める。

登場人物

健三
外国から帰って東京の駒込に住み、講義の準備と調べ物に追われている三十六歳の男。
御住
健三の妻。夫と打ち解けられず、ときどき発作を起こす。三番目の子を身ごもっている。
島田
健三が幼いころ養子に出された先の養父。金に細かく、二十年近くたってから健三の前に現れる。
御常
島田の元の妻で、健三の養母。島田と別れたあと波多野という家に嫁いだ。
御夏
健三の腹違いの姉。喘息持ちでよくしゃべり、健三から月々小遣いを受け取っている。
比田
姉の夫で健三の従兄。宿直を理由に家をあけがちで、島田との話し合いの間に立つ。
長太郎
健三の兄。局に勤める病身の小役人で、父が残した島田との書類を健三に渡す。
吉田虎吉
島田の使いとして最初に健三を訪ね、付き合いの再開を頼む男。
御縫
島田の後妻の御藤の連れ子で、軍人の柴野に嫁いだ。かつて健三の嫁にという話があった。

読みどころ

過去は切り捨てたつもりでも、ふいに後ろから追いかけてくる。この小説の中心にはその手触りがある。健三は学問を積んで今の暮らしを手に入れた。しかし養父の島田が現れると、幼いころの記憶と親類の金の話に引き戻される。周りの誰もが金に困り、健三自身にも余裕はない。大きな事件は起こらないまま、片の付かない関係が少しずつ積み重なっていく。

注目したいのは夫婦のやりとりだ。健三も細君も、相手のほうが先に歩み寄るべきだと考えて黙り込む。語りは二人の言い分を交互に見せ、どちらか一方の肩を持たない。中ほどで健三が思い出す、島田夫婦と暮らした幼年時代も読みどころである。「御前の御父ッさんは誰だい」と毎晩のように問われる場面は、大事にされることが自由を奪われることでもあった子どもの心を描いている。

『道草』は1915年に『朝日新聞』に連載された。夏目漱石が完成させた最後の長編で、次の『明暗』は未完に終わった。漱石自身が養子に出された経験や、留学から帰ったあとの暮らしが下敷きにあると言われる。それまでの作品よりも作家の身辺に近い題材を、突き放した目で書いた一作である。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

細君の父は職を失って困り果て、健三に借金の連印を頼みにくる。健三は判を押すのは断るが、友人の妹婿から四百円を借りて渡す。やがて細君は予定より早く産気づき、産婆が来る前に三人目の女の子を産む。健三は暗がりの中で、脱脂綿の名も知らずに綿を赤ん坊の上に載せる。

御縫が亡くなって送金が途絶えると、島田は年を越す金を出せと迫る。健三が断ると「もう参上りませんから」と言い残して帰る。まもなく島田に頼まれた男が来て、離縁のとき健三が書いた書付と引き換えに金を出すよう持ちかける。健三は今後無心をしない約束なら昔のよしみで百円出すと答え、期限を正月いっぱいとする。

年が明けると、健三は原稿を書いてその金を作り、比田と兄に仲立ちを頼む。二人は百円の受取と縁切りの証文、昔の書付を持ってくる。細君はこれで片が付いたと安心するが、健三は「世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない」と言う。細君は黙って赤ん坊を抱き上げ、その頬に何度も口づけをする。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日