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ろうぎしょう

老妓抄

岡本かの子

読了時間
約31分
文字数
15,483字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「中央公論」1938(昭和13)年11月号

三行でいうと

  1. 老妓の小そのは財産を築いた晩年、健康で常識的な暮らしを望み、電気の仕掛けや新しい稽古事に親しんでいる。
  2. 修繕に来た青年の柚木が発明で金を儲けたいと話すと、老妓は暮らしの面倒を見ると申し出て、工房を与える。
  3. 暮らしの心配が消えた柚木は熱意を失う。老妓の真意をはかりかねるうちに、養女のみち子が近づいてくる。

登場人物

小その
老妓で、本名は平出園子。永年の辛苦で財産を作り、遠縁の子を養女にして、新しい稽古事に移っている。
柚木
苦学して電気学校を出た青年で、発明をして専売特許を取ることを望み、老妓の後援を受ける。
みち子
老妓の養女で女学校に通い、柚木の家へ気紛れに遊びに来る。
蒔田
近所の電気器具商の主人で、柚木の同郷の中学の先輩。柚木を老妓の家へ連れて来る。
作者
この物語を書き記す語り手で、老妓に一年ほど和歌を教えた。

読みどころ

老妓は若い男の暮らしを丸ごと引き受けながら、見返りを何も口にしない。何のためにそうするのか、柚木と同じ問いを抱えて読み進めることになる。手がかりの一つは、男遍歴を語り終えた老妓の言葉だ。自分は「たった一人の男を求めているに過ぎないのだね」と彼女は言う。

老妓の人柄は、小さな場面に出る。電気で湯が出る仕掛けに「まるで生きものだね」と驚き、修繕を見ているうちに電気の知識まで身につける。柚木に腕の皮を抓らせる場面では、踊りで鍛えた体の強さを見せる。語り手は老妓に和歌を教えた「作者」本人である。若い二人の内面には深く入りながら、老妓の胸の内は外から見える姿で描いていく。

岡本かの子は歌人として出発し、晩年に小説を次々と発表した。本作は1938年に『中央公論』に発表された。短い作品だが、老いても衰えない欲と、それを見つめる若者の戸惑いが濃い文章で書かれている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

柚木は気力が衰えたことを老妓に見抜かれ、苦労の種を見付けるよう言われる。老妓は慰労の遠出に柚木を誘い、若い芸妓たちが柚木を取り持つ。芸妓たちと張り合ったみち子は、晩餐の前に一人で帰ってしまう。その後みち子は一日か二日置きに来るようになり、柚木は彼女を妻にした暮らしを想像する。ある日、柚木は脂汗を流してみち子に迫る。みち子は柚木が臆病と戦っているのだと読み取り、彼の腕を取る。

さみだれの夕方、老妓が柚木を訪ねる。心の底から惚れ合うのなら賛成だが、切れっぱしの惚れ合い方ならつまらないと老妓は話す。仕事でも恋でも一途な姿を見て死にたいとも言う。柚木はその晩に旅へ出て、老妓は自分に出来なかったことを自分にさせようとしているのだと考える。海岸の旅館で一週間ほど過ごしたところへ蒔田が迎えに来て、柚木は連れ帰られる。それからの柚木には出奔の癖がつく。

柚木がまた逃げたとみち子に聞かされても、老妓は平気な顔をして見せる。だが蒔田に探索を頼んだあとで「やっぱり若い者は元気があるね。そうなくちゃ」と呟き、目頭に袖口を当てる。真夏になって、作者のもとに老妓から和歌の詠草が届く。年ごとに悲しみが深くなると詠んだ一首は、「いよよ華やぐいのちなりけり」と結ばれている。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日