たけのきど
竹の木戸
- 読了時間
- 約25分
- 文字数
- 12,197字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 東京郊外に住む会社員の大庭真蔵の家は、井戸のない隣の植木屋夫婦に水を汲ませてやっている。
- 植木屋が生垣を開けて粗末な竹の木戸を作ると、女中のお徳は隣の女房お源と言い合いになる。
- 炭の値が上がった冬、真蔵は窓の下で炭を手にしたお源と目が合い、お徳は炭に符号を付けて罠をかける。
登場人物
- 大庭真蔵
- 東京郊外に住み、京橋区辺の事務所に通う温厚な会社員である。
- お徳
- 大庭家に五六年前からいる二十三の女中で、家の中で権力が強い。
- お源
- 生垣の向こうの小屋に住む植木屋の女房で、お徳と同じ年頃である。
- 磯吉
- お源の亭主の植木屋で、無口なうえ仕事をよく休み、大庭の女たちに薄気味悪く思われている。
- お清
- 真蔵の細君の妹で、出戻りである。
読みどころ
物語の中心にあるのは炭である。佐倉炭の一片が何銭に当たるかを女中がこぼす。隣の女房は、毎日わずかな量り炭を買うのにも困っている。生垣一つを隔てたこの差が、粗末な竹の木戸を通して少しずつ人を追い詰めていく。貧しさの中で人が何を恥じ、何に耐えられなくなるのかを考えさせる短編である。
読むときは、語りが大庭家と植木屋の小屋を行き来する点に目を向けたい。真蔵が高窓から首を出してお源と目が合う場面は短いが、その後の両家の動きはすべてここから始まる。お源が布団の中で「性質の善良のは魯鈍だ」と独り問答をする場面も見逃せない。磯吉が冷や飯に白湯をかけて黙々とかき込む描写からは、言葉の少ない夫婦の暮らしが見えてくる。お徳とお源の口喧嘩が、炭の値の話になるといつの間にか元の仲に戻るのも、この作品の細やかなところである。
国木田独歩は『武蔵野』で郊外の自然を描いた作家である。本作は独歩の晩年の短編で、同じ東京の郊外を舞台に、そこで暮らす貧しい人々の姿を突き放した筆で描いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
お徳は符号を付けた佐倉炭と土竈炭が消えたことを家の者に告げる。真蔵は昼に見たことを打ち明けない。老母は事を荒立てるなと言い、炭はお徳の部屋の戸棚にしまうことに決まる。その夕方、お源は水を汲みに来ず、代わりに磯吉が来る。お源は真蔵に見られた恥ずかしさと恐ろしさで布団をかぶっていた。帰ってきた磯吉に、食うや食わずの暮らしはもう嫌だと泣いて訴える。
磯吉は黙って家を飛び出す。仲間の金次に一円の借金を断られ、帰り道の炭屋の軒下から炭俵を一つ担いで帰る。翌朝、磯吉は知り合いの店で買ったとお源に話し、お源は喜ぶ。お源が水を汲みに出ると、炭俵が外から片付けられているのを見てお徳がにやりと笑う。そこへ炭屋の御用聞が来て、昨夜店で上等の佐倉炭を一俵盗まれたと話す。家に戻って俵を開けたお源は、中が佐倉炭だと知る。
お徳は老母と細君から厳しく叱られる。日暮れにお清が見舞いに訪ねると、お源は炭俵を踏み台にして土間の梁に細帯をかけ、首を吊って死んでいた。二日後に竹の木戸は壊され、生垣は元に戻る。二月後、磯吉はお源と同じ年頃の女を女房にして渋谷村に住むが、そこもやはり豚小屋同然の家であった。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日