あかいろうそくとにんぎょ
赤い蝋燭と人魚
- 読了時間
- 約14分
- 文字数
- 6,513字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
三行でいうと
- 北の海に棲む身重の人魚は、我が子を人間の町で幸せに育ててほしいと願い、陸で産み落とそうと決める。
- 蝋燭屋の老夫婦がお宮の石段の下で赤ん坊を拾い、神様の授け子として大事に育てる。娘は蝋燭に赤い絵を描き始める。
- 絵の蝋燭は海の災難よけとして評判になる。そこへ南の国から来た香具師が、娘を売ってくれと老夫婦に持ちかける。
登場人物
- 女の人魚
- 北の海に棲む人魚で、生まれる子だけは人間の町で育ってほしいと願い、陸に向かって泳いでいく。
- 娘
- 老夫婦に拾われて育った人魚の子で、胴から下が魚の形をしており、白い蝋燭に赤い絵具で絵を描く。
- お爺さん
- お宮の山の下で蝋燭を造っている年寄りで、拾われた赤ん坊を神様のお授け子として育てる。
- お婆さん
- 店で蝋燭を売っている年寄りで、お宮へのお参りの帰りに石段の下で泣く赤ん坊を見つける。
- 香具師
- 珍しいものを探しに南の国から来た男で、娘が人魚であると見抜き、大金で買い取ろうとする。
読みどころ
人魚の母は、人間はこの世界で一番やさしいものだと聞いていた。だから我が子を手放し、陸に産み落とすことを選ぶ。拾った老夫婦も、はじめは心から娘をかわいがって育てる。その気持ちがどう変わり、変わったあとに何が起きるのか。人の心の移ろいやすさを、童話の形で静かに見せる作品である。
冒頭と終わりに、北の海の夜景が出てくる。月の光と、うねうねと動く波の描写である。読み比べると、同じ海が物語の前と後で違って見えるはずだ。蝋燭の評判で山が名高くなる場面には、「誰も、蝋燭に一心を籠めて絵を描いている娘のことを思う者はなかったのです」と書かれる。語りは「ありました」「あります」とやわらかい調子のまま、娘の孤独を描いていく。
小川未明は日本の近代童話を切り開いた作家で、本作はその代表作として広く知られている。子ども向けの話でありながら、はっきりとした救いを描かない。読み終えたあとに、母の願いと町の行く末について考えさせられる一編である。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
香具師は何度断られても通ってきて、「昔から人魚は、不吉なものとしてある。今のうちに手許から離さないと、きっと悪いことがある」と老夫婦に言う。老夫婦はこの言葉を信じ、大金にも心を奪われて娘を売る約束をする。娘は泣いて頼むが聞き入れられない。迎えの夜、娘はせき立てられて絵を描けず、手にした蝋燭をみんな赤く塗ってしまう。娘は赤い蝋燭を二三本残して連れて行かれる。
その真夜中、髪がびっしょりと濡れた色の白い女が店に来て、赤い蝋燭を買って帰る。女が払った銭は貝殻だった。その夜、急に大暴風雨となる。香具師が娘を檻に入れて船に乗せ、南の国へ向かって沖合にいた頃である。その夜に難船した船は数えきれなかった。
それからは、赤い蝋燭がお宮に点った晩は、どんなに天気がよくてもたちまち大あらしになった。老夫婦は神様の罰が当ったと言って蝋燭屋をやめる。それでも毎晩、誰が上げるのか分からない赤い蝋燭が点り、それを見ただけで海で災難に遭うようになる。参詣する者はいなくなり、お宮は町の鬼門となった。雨の晩に、蝋燭の光が波の上から山のお宮へ登っていくのを見た者がいる。それから幾年も経たないうちに、町は亡びてしまう。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日