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しょうねん

少年

谷崎潤一郎

読了時間
約47分
文字数
23,230字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「スバル」1911(明治44)年6月号

三行でいうと

  1. 十歳ほどの「私」は、同級で意気地なしと評判の塙信一から、屋敷のお稲荷様の祭りに誘われる。
  2. 屋敷の信一は学校とは別人のように威張り、馬丁の子の仙吉や姉の光子を相手に乱暴な遊びを始める。
  3. 私は毎日のように屋敷へ通うようになり、ある晩、光子との約束で、誰も上がれない西洋館の二階へ忍び込む。

登場人物

私
萩原の栄ちゃんと呼ばれる語り手で、二十年ほど前、十歳ぐらいで有馬学校に通っていたころを振り返る。
信一
塙の家の坊ちゃんで、附添の女中を片時も離さない意気地なしと学校で評判の同級生である。
光子
信一の十三四の姉で、西洋館で異人の女からピアノを習っている。
仙吉
塙の家の馬丁の子で、学校では一二年上の名代の餓鬼大将である。
女中
信一の附添で、私を屋敷に誘い、遊びの場にたびたび顔を出す。

読みどころ

学校では弱虫の坊ちゃんが、屋敷に帰ると年上の餓鬼大将を縛り上げる。子どもたちの力関係は場所によってがらりと変わり、遊びの中でも何度も入れ替わる。いじめられる側に回った私は怖がりながらも、相手の思うままにされることに不思議な快さを覚えていく。支配する者とされる者のあいだに生まれる、この奇妙な引力が作品の中心にある。

語り手は、二十年ほど前の自分を思い出して語る大人である。着物の柄、姉の部屋の人形、草双紙の残酷な挿絵が細かく描かれ、屋敷の奥へ進むたびに町の暮らしが遠ざかる。初めて座敷に通された私は、「遠い不思議な国に来たような気がした」と振り返る。古沼のそばで聞くピアノの響きや、鍵のかかった西洋館の二階が、少年の好奇心を少しずつ引き寄せていく。

谷崎潤一郎が作家として世に出て間もないころの短編で、1911年に『スバル』に発表された。美しい者に従うことに喜びを見いだす心は、のちの谷崎作品にも繰り返し現れる。ここではそれが、日本橋の町の春と大きな屋敷を舞台にした子どもの遊びとして描かれている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

約束の晩、私は縁日へ行くと偽って家を出る。暗い庭で二人を待つうちに怖くなり、帰ろうとしたところで玄関の奥に蝋燭の灯を見つける。二階の部屋に入ると誰もおらず、壁には西洋の乙女の油絵が掛かっている。置物と思った蛇が動いたように見えて立ちすくんだとき、帷の間から油絵と同じ顔が現れる。洋服を着た光子であり、私はそこで油絵が光子の肖像だと気づく。

光子は私を暗い隣の部屋へ連れていく。そこでは仙吉が手足を縛られ、額に蝋燭を載せて燭台にされていた。仙吉は光子にすっかり降参したと言い、光子は私に、信一の言うことは聞かずに自分の家来になれと迫る。私は黙って頷き、仙吉と並んで縛られて、額に蝋燭を載せられる。やがて隣の部屋からピアノが聞こえ、二人は蝋に目をふさがれたまま聴き入る。

その翌日から私も仙吉も光子に従い、信一が姉に逆らうと押さえつけて縛った。信一も姉の家来になり、家でも学校と同じ意気地なしになる。光子は三人を奴隷のように使い、「腰掛けにおなり」と命じれば三人は四つ這いになった。光子は長くこの小さな国の女王となる。私は二度と西洋館へ行かず、あの青大将が本物だったかどうかは今も分からない。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日