よながひめとみみお
夜長姫と耳男
- 読了時間
- 約55分
- 文字数
- 27,269字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日
三行でいうと
- ヒダの若いタクミの耳男は、親方の身代りとして夜長の長者の邸へ行き、姫の持仏を彫る腕くらべに加わる。
- 馬に似ていると姫に笑われ、エナコに耳をそがれた耳男は、姫の気に入らない化け物の像を彫ると決める。
- 耳男は蛇を裂いて生き血を飲みながら三年小屋にこもるが、目に残る姫の笑顔に押され続ける。
登場人物
- 耳男
- ヒダの二十歳のタクミで、病気の親方の身代りに長者の邸へ招かれた語り手である。
- 夜長ヒメ
- 夜長の長者の一粒種で、耳男が初めて会ったときは十三歳だった。
- 長者
- ヒメの十六の正月までに、ミロクの像とそれを納めるズシを三人のタクミに頼む。
- アナマロ
- 長者の使者で、耳男を邸へ連れていき、のちに黄金を渡して逃げるよう勧める。
- 青ガサ
- 耳男の親方と並んでヒダの三名人とうたわれるタクミである。
- チイサ釜
- 名人フル釜の倅で、父の代りに来た耳男の七つ上のタクミである。
- エナコ
- 姫の着物を織るために長者が遠い国から買い入れた娘で、耳男の片耳をそぎ落とす。
読みどころ
この作品の中心にあるのは、無邪気な笑顔の姫と、その笑顔に挑む若いタクミの関係である。耳男は姫を憎んで、恐ろしい化け物の像を彫ろうとする。ところが、目に残る姫の笑顔にいつも押し返されてしまう。美しいものを彫ることと恐ろしいものを彫ることは、どう違うのか。読み手はその問いを耳男と一緒に抱えながら読み進めることになる。
語りは耳男の「オレ」による一人称で、カタカナを多く混ぜた語り口が続く。耳男は親方から「珍しい人や物に出会ったときは目を放すな」と教えられている。姫やエナコを見つめる場面は、この教えを踏まえて読むとよい。もう一つの見どころは、耳男が人前で顔を赤くし、汗が止まらなくなる場面である。姫の言葉を一つずつ追っていくと、笑顔の印象と言葉の中身の差が少しずつ見えてくる。
坂口安吾の作品で、1952年に雑誌『新潮』に発表された。山奥の長者の邸を舞台に、昔話のような語りで進む。同じ作家の『桜の森の満開の下』も山を舞台にした説話風の物語で、あわせて読むと比べやすい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
耳男は大晦日の夜に像とズシを仕上げる。元日にヒメが小屋へ来て、天井に吊るされた蛇の骨を喜んで眺め、そのあと小屋に火をかけさせる。ヒメは三人の作のうち耳男の像がいちばん気に入ったと告げる。耳男は殺されると思い、ヒメの顔を刻ませてほしいと願い出る。ヒメはそれを受け入れる。ヒメは、エナコが耳男の耳を斬った懐剣でのどを突いて死んだことを明かす。血に染まったその着物は、耳男の下着に仕立て直されていた。
やがてホーソーがはやり、ヒメは耳男の像を門前に置かせる。長者の邸から病人が出なかったので、像は池のほとりのホコラに祀られる。耳男は名人ともてはやされ、ヒメは神の化身と評判になる。耳男はヒメの笑顔をミロクに写して彫り続けるが、ヒメはそのミロクにはお爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないと言う。次の疫病が来ると、ヒメは耳男に山で蛇をとらせる。高楼で生き血を飲み、蛇を天井に吊るさせ、村の人がみな死んでほしいと口にする。
畑で人が倒れるたびに喜ぶヒメを見て、耳男はこのヒメを殺さなければ人間の世界はもたないと考える。耳男はヒメを抱きすくめ、キリを胸に打ちこむ。ヒメは笑って、サヨナラの挨拶をしてから殺すものだと言う。そして「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ」とささやき、目を閉じる。耳男はヒメを抱いたまま気を失って倒れる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日