おおしおへいはちろう
大塩平八郎
- 読了時間
- 約1時間31分
- 文字数
- 45,492字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字旧仮名
三行でいうと
- 天保八年二月、飢饉の続く大阪で二人の少年が西町奉行所の門を敲き、陰謀を告げる訴状を差し出す。
- 東町奉行所では与党の小泉が斬られ、瀬田は塀を越えて首領大塩平八郎の屋敷へ駆け込む。
- 平八郎は屋敷に火を掛け、救民の旗を押し立てて門人らと繰り出し、富豪の集まる船場へ向かう。
登場人物
- 大塩平八郎
- 東組与力を隠居した四十五歳の学者で、門人を率いて事を挙げる陰謀の首領。
- 大塩格之助
- 平八郎の養子で東組与力の当主だが、家では隠居の平八郎が万事を指図している。
- 瀬田済之助
- 東組与力で与党の一人。東町奉行所で捕らえられかけ、便所から庭へ逃れる。
- 跡部山城守良弼
- 東町奉行。密訴を受けながら決心がつかず、捕方を出すのを見合わせる。
- 堀伊賀守利堅
- 今月着任したばかりの西町奉行で、少年たちから訴状を受け取る。
- 坂本鉉之助
- 玉造組与力で荻野流の砲術者。加勢に呼ばれ、奉行所の防備と市中の撃ち合いに当たる。
- 宇津木矩之允
- 学力の優れた塾生。前夜に陰謀を知り、連れてきた少年岡田を逃がそうとする。
読みどころ
飢えた民を見かねて立った学者は、なぜ起ち、何を果たせなかったのか。平八郎は事を挙げる朝になって、心に逡巡もなければ踊躍もないと感じている。準備のあいだに見えていた成功の幻も、もう見えない。自分が企てを進めたのではなく、「陰謀が己を拉して走つたのだと云つても好い」と平八郎は振り返る。この醒めた首領の姿が作品の芯にある。
物語は天保八年二月十九日の一日を、時刻を追って描く。視点は西と東の奉行所、大塩の屋敷、城内と次々に移る。密訴の書付を読む堀の侮蔑や、決心がつかずに火事を眺め続ける跡部が描かれる。雪駄穿きで現れて出兵を渋る与力もいる。立場ごとに人の弱さや体面が出てくるところが読みどころだ。師に殺されると知りながら弟子を逃がす宇津木の場面は、短いが強い印象を残す。
森鷗外の歴史小説の一つで、附録によれば『中央公論』に載った。その附録で鷗外は、時刻の分かる史実のあいだに一日の出来事を並べ、推測を加えて書いたと明かしている。暴動の原因は飢饉と見て、平八郎の思想を「未だ醒覚せざる社会主義」と呼んでいる。本編と附録をあわせて読むと、史料から小説を組み立てる鷗外の手つきが見えてくる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
船場で富豪の家々を襲ったものの、雑人たちは金銀を身に着けて思い思いに立ち去り、窮民に施すことはできなかった。米店に火を掛けた後、平野橋と淡路町で奉行方と撃ち合い、同勢は崩れていく。平八郎は重立った者に、銘々立ち退いて処決するよう告げる。父子と十二人ほどで舟に乗り、仲間を順に陸へ上げ、最後は格之助と瀬田、渡辺の四人で河内へ向かう。
河内では、渡辺が足手纏いになるまいと社で腹を切り、平八郎が介錯する。熱を出した瀬田は百姓家で休むうちに脇差を盗まれ、竹籔の松で首をくくって死ぬ。平八郎は格之助と寺で頭を剃って僧の姿になり、大阪へ引き返す。そして出入りの商人美吉屋五郎兵衛の離座敷に潜む。
美吉屋では米が多くいるという女中の話から居所が知れ、三月二十七日の朝に捕手が踏み込む。平八郎は離座敷に火を掛けて喉を突き、格之助は父の手に掛かって死んだものと察せられた。翌年の評定で与党の多くは刑の前に牢死し、磔柱には塩詰の死骸が懸けられる。密訴した平山は預け先で自殺し、坂本は賞与を受けたが、両町奉行には賞与がなかった。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日