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となりのよめ

隣の嫁

伊藤左千夫

読了時間
約47分
文字数
23,121字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「ホトトギス」1908(明治41)年2月号

三行でいうと

  1. 中学を出て百姓を始めたばかりの省作は、稲刈りの疲れで起きられず、母や姉にせかされて朝を迎える。
  2. 隣家と稲刈りを手伝い合う日、隣の嫁のおとよは省作と並んで刈り、ひそかに彼の分まで刈ってやる。
  3. 雨の日に満蔵がおとよの気持ちを言い当てて母にたしなめられ、その夜省作は隣へもらい湯に行く。

登場人物

省作
十九歳で、この春に中学を終えて百姓を始めたが、仕事の手回しがのろい。
おとよ
隣の清六の嫁で十九歳。百姓仕事が上手で、ふだんは唄がうまく人の輪の中心になる。
おはま
省作の家の十四歳の下女で、稲刈りで省作と刈り比べをしたがり、おとよを慕って何でもまねる。
満蔵
省作の家で働く正直な男で、稲刈りでおとよが省作を助けるのを見ていた。
清六
隣家の息子でおとよの夫。皆から清さんと呼ばれる。
政さん
向かいの家の話上手な若者で、雨の日に繩ないの仲間に加わる。
母
省作の母で、小言を言いながらも家の者の手前を気にかけて省作を案じている。

読みどころ

人の妻を思ってしまった若者は、その気持ちをどう扱えばよいのか。省作は、隣の嫁のおとよが自分を思っていると気づかされる。そのときから、不埒だと責める心と、うれしさを抑えられない心の両方を抱えることになる。おとよもまた、だまされて嫁いだ家で日々を送っている。物語は二人の思いを裁かずに、その苦しさを見つめていく。

省作は稲刈りの翌朝、「百姓はやアだなあ……。ああばかばかしい、腰が痛くて起きられやしない。あアあア」とぼやいていた。その彼が、雨の日の繩ないで兄の話を聞いて考えを改めていく。この流れに注目したい。籾干しや刈り比べ、刈り上げの祝いを餅にするか鮓にするかの言い合いが、方言まじりの生きた会話で描かれる。一家で働く農村のにぎわいの中に、隠しきれない恋の気配が少しずつにじんでいく。

伊藤左千夫は正岡子規に学んだ歌人で、小説では『野菊の墓』で知られる。本作にも作者の郷里に近い成東の祭りの話が出てきて、上総の農家の暮らしが細かく書き込まれている。竜の髭の青い実や、障子に差す朝日の色を写した文章も、歌人らしい見どころである。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

もらい湯の風呂で、おとよは火を焚き足して省作の背を流そうとし、小声で名を呼ぶ。お袋に呼ばれていったん離れるが、また出てくる。里から届いた蜂屋柿を省作の袂へ入れ、その手で省作の手をとってから戸の内へ消える。省作は鶏が鳴くまで眠れなかった。人の妻を思う罪と、おとよへのいとしさのあいだで考えが巡り続ける。

それから二人は、そぶりと微笑で心を通わせる仲になる。省作が思い詰める時もあったが、おとよは省作をなだめ、不義の罪は犯さなかった。おとよは媒妁人の偽りに乗せられ、小作人同様の家へ嫁いでいた。一度は里へ帰ったものの、父に離縁は許されないと言われて戻っていた。十二月半ば、隣村の家へ省作が婿養子に行く話がほぼ決まる。

省作はおはまの手引きでおとよと会い、二人の関係に区切りをつける。二人は手をとり合って涙を流した。いつか神の恵みに救われることがあれば、互いの涙の繩を結び合わせようと約束する。その翌々日、おとよは里へ帰り、そのまま隣には戻らなかった。省作もいったんは養家へ行ったが、おとよとのうわさが立ったためか、縁組は破談になった。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日