しろ
白
- 読了時間
- 約15分
- 文字数
- 7,447字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「女性改造」1923(大正12)年8月
三行でいうと
- ある春の昼過ぎ、白い犬の白は、大の仲よしである隣の黒が犬殺しに狙われているのを見る。
- 怖くなった白は黒を残して逃げ帰るが、体はまっ黒に変わり、主人の子どもたちに追い出される。
- 宿無し犬になった白は、子どもたちにいじめられる子犬の声を聞き、今度は逃げずに駆けつける。
登場人物
- 白
- 子犬の時から牛乳のように白かった犬で、黒を見捨てて逃げた日に体がまっ黒に変わる。
- 黒
- 白の隣の家の飼犬で、毎朝お互いの鼻の匂いを嗅ぎ合う大の仲よし。
- お嬢さん
- 白の飼い主の家の娘で、黒くなった白を気味悪がり、野良犬だと思いこむ。
- 坊ちゃん
- お嬢さんの弟の春夫で、黒くなった白をバットで打ち、砂利を投げつける。
- 犬殺し
- 印半纏を着て、罠を後ろに隠したまま黒を狙う。
- ナポレオン
- カフェの大正軒に住む茶色の子犬で、子どもたちにいじめられていたところを白に助けられる。
読みどころ
大の仲よしを見捨てて逃げたその日から、白は自分の姿におびえて暮らすことになる。臆病だった自分とどう向き合うかが、この話の中心にある。犬の目から見た世界を通して、恥ずかしさや後悔をたどることができる。
語り手は「御覧なさい」と読者に呼びかけながら、です・ます調でやさしく語る。人には犬の言葉が分からないが、犬は人の言葉を聞き分けている。語り手はそうした事情を括弧書きで説明しながら話を進める。理髪店の鏡や水たまり、自動車の車体など、姿を映すものを白が恐れる場面に注目したい。黒の「助けてくれえ!」という叫びが、公園で別の声に重なって聞こえる場面も読みどころだ。
芥川龍之介は『蜘蛛の糸』や『杜子春』など、子ども向けの話もいくつか書いている。この作品もその一つで、原文の末尾には大正十二年七月と記されている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
ナポレオンと別れたあと、白は黒い犬のまま何度も命を救う。踏切で轢かれかけた子ども、大蛇に呑まれかけた猫、山で道に迷った学生たち、火事の二階に残された子どもを助け、檻を破った狼とも戦う。新聞は勇ましい黒犬を伝えるが、犬はそのたびに姿を隠してしまう。
ある秋の真夜中、疲れ切った白は主人の家の犬小屋の前に帰ってくる。白は月に向かって、黒を見殺しにしたことを打ち明ける。臆病を恥じて危険と戦ううちに、やがて黒い体がいやで死のうとしたが、どうしても死ねなかった。自殺を決めた白は、その前に一目だけ主人に会いたいと願い、そのまま眠りこむ。
朝になると、お嬢さんと坊ちゃんが犬小屋の前で驚いている。白が帰ってきたことを悔やみかけたとき、坊ちゃんが「白がまた帰って来ましたよ!」と叫ぶ。お嬢さんの瞳には、犬小屋の前に坐る白い犬が小さく映っていた。お嬢さんは白を抱きしめて「あら、白は泣いているわよ。」と言い、坊ちゃんは姉も泣いていると言い返して話は終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日