げんかくさんぼう
玄鶴山房
- 読了時間
- 約25分
- 文字数
- 12,302字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行
三行でいうと
- ゴム印の特許で資産を作った堀越玄鶴は肺結核を患い、娘夫婦と寝たきりの妻のいる家の離れで床に就いている。
- 玄鶴が囲っていたもと女中のお芳が、玄鶴との子の文太郎を連れて、看病のために泊りこみに来る。
- 子供の喧嘩と妻の嫉妬で家は険悪になり、看護婦の甲野はそれを冷やかに眺める。玄鶴は自分の一生と向き合う。
登場人物
- 堀越玄鶴
- 玄鶴山房の主人で、画家としても多少知られる。ゴム印の特許で資産を作り、今は肺結核で離れに伏せっている。
- お鳥
- 玄鶴の妻で、大藩の家老の娘。七八年前から腰が立たず、茶の間の隣で床に就いている。
- お鈴
- 玄鶴の娘で重吉の妻。気の優しい性格で、父と母とお芳のあいだで一家のことに気をもむ。
- 重吉
- 玄鶴の婿で銀行に勤める。舅の病がうつるのを怖れ、離れにはほとんど足を入れない。
- 武夫
- 重吉とお鈴の一人息子で、今年小学校に入った。泊りに来た文太郎をいじめる。
- 甲野
- 玄鶴につき添う看護婦。暗い過去を持ち、一家の争いを内心で楽しんでいる。
- お芳
- 玄鶴が五六年前から囲っていたもと女中。手切れの後、看病の手伝いとして泊りこむ。
- 文太郎
- 玄鶴がお芳に生ませた男の子。母に似て気が弱い。
- お松
- 堀越家の信州生まれの女中。
読みどころ
風流な門構えの家の中で、死に近い老人と家族は何を思って暮らしているのか。この作品はそれを描く。病の主人、寝たきりの妻、娘夫婦、看護婦、そして囲われていた女と子が一つ屋根の下に集まる。誰か一人が悪人なのではない。それでも家の空気は少しずつ濁っていく。
語り手は家の外の画学生から重吉、お鈴、甲野、玄鶴へと視点を移していく。同じ出来事が人によって違って見えるところに注目したい。とりわけ看護婦の甲野の目は冷たく、一家の争いを楽しんで眺める。病床の玄鶴が自分の一生を振り返る五章は、この作品の中心である。
芥川龍之介の晩年の作で、1927年に『中央公論』に発表された。家庭の争いと老いと死を、皮肉をきかせた短い場面の積み重ねで描いている。最後の章では視点が家の外の人物へ移る。そこで読後に残る冷え冷えとした印象まで含めて味わいたい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
お芳が田舎へ帰った後、玄鶴は孤独のなかで自分の浅ましい一生と向き合う。大晦日が近づいた日、玄鶴は甲野に晒し木綿を六尺買わせ、それで首をくくろうと考える。だが夜になると甲野は寝ずに起きていると答え、玄鶴は計画を見破られたと感じる。そのとき玄鶴はなぜか可笑しくなり、とめどなく笑い出す。
翌日の正午近く、玄鶴は一人きりの離れで晒し木綿を頭に巻きつけ、両手で引っぱる。そこへ武夫が顔を出し、「やあ、お爺さんがあんなことをしていらあ。」と囃しながら茶の間へ走って行く。一週間ほど後、玄鶴は家族に囲まれて肺結核で死ぬ。
告別式に来た人々は、門を出るころには玄鶴のことを忘れている。火葬場では一等の竈が満員だったため、重吉が嘘をついて交渉し、特等で焼いてもらうことになる。帰りの馬車から、煉瓦塀の前に一人佇んで目礼するお芳が見える。同乗していた重吉の従弟は、上総の漁師町で暮らすお芳親子を思い描き、険しい顔でリイプクネヒトの本を読みはじめる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日