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こうじん

行人

夏目漱石

読了時間
約7時間25分
文字数
222,030字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「朝日新聞」1912(大正元)年12月~1913(大正2)年11月

三行でいうと

  1. 二郎は友人の三沢と大阪で会う約束をするが、三沢は胃を病んで入院し、同じ病院の芸者を気にかける。
  2. 大阪で母と兄夫婦に合流した二郎は、和歌の浦で兄の一郎から妻の直の節操を試してほしいと頼まれる。
  3. 嵐で嫂と和歌山に一晩泊まった後、東京へ戻った一郎は孤独を深め、同僚のHさんと旅に出る。

登場人物

二郎
語り手。長野家の次男で、有楽町の事務所に勤めている。
一郎
二郎の兄。学者で、妻の心が分からないことに苦しんでいる。
直
一郎の妻で二郎の嫂。口数が少なく、一人娘の芳江がいる。
お重
二郎の妹。兄の一郎に同情し、嫂の直と折り合いが悪い。
三沢
二郎の友人。大阪の病院で同じ階に入院した芸者を気にかける。
Hさん
一郎の同僚。一郎を旅行に連れ出し、その様子を手紙で二郎に知らせる。
岡田
母方の遠縁の男。もとは二郎の家の食客で、大阪の保険会社に勤めている。
お兼
岡田の妻。娘のころ二郎の家に仕立物を届けていた。
お貞
二郎の家で働く女性。岡田の世話で佐野と結婚する。

読みどころ

最も近くにいる人の心は、外から確かめられるのか。一郎はその問いに追い詰められ、実の弟に妻の節操を試させようとする。頼まれた二郎は断りきれず、嫂の心も兄の心も分からないまま巻き込まれていく。夫婦や兄弟のあいだにある埋まらない距離を、この作品は正面から描いている。

語り手の二郎は自分を「自分」と呼び、後から当時を振り返るように語る。前半は大阪の病院で三沢と芸者のいきさつを見守る話で、そこから兄夫婦の話へ移っていく。和歌山の宿で嵐に閉じこめられた夜は、灯が消えた暗闇の中の会話が読みどころだ。終盤は語り手がHさんに替わり、旅先で一郎が語った言葉が手紙で伝えられる。

夏目漱石の後期の長編で、『彼岸過迄』『こころ』とあわせて後期三部作と呼ばれる。『朝日新聞』に連載され、作者の病気で一時中断した。分量があり漢語も多いが、四つの章ごとに読み進めやすい。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

東京へ戻ると、一郎は書斎で二郎に直のことを問いただす。二郎がはっきり答えないため、一郎は彼を軽薄だと罵る。二郎は家を出て下宿に移る。お貞は一郎と直の媒酌で佐野と式を挙げ、大阪へ発つ。冬が過ぎたある雨の晩、直が一人で下宿を訪ねてくる。直は、夫婦の仲が悪くなる一方だと二郎に打ち明ける。

一郎は講義の途中で説明に詰まることがあり、家族は彼の様子を案じる。二郎は三沢を通してHさんに頼み、一郎を旅に連れ出してもらう。十日あまり後、Hさんから長い手紙が届く。一郎は何をしても落ちつけない不安を語り、妻を打ったことまでHさんに話していた。小田原で一郎は「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない」と言う。神を持ち出したHさんの頬を、一郎は平手で打つ。

二人は箱根を経て紅が谷の別荘に落ちつく。一郎は薄の根を這う蟹に見とれ、香厳という坊さんのようになりたいと語る。Hさんは眠っている一郎のそばで手紙を書き終える。この眠りから永久に覚めなかったら幸福だろうと書く。同時に、覚めなかったらさぞ悲しいだろうとも書き添えて、手紙は終わる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日