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けーのしょうてん

Kの昇天

或はKの溺死

梶井基次郎

読了時間
約12分
文字数
5,502字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「青空」青空社、1926(大正15)年10月号

三行でいうと

  1. 療養地のN海岸で知り合ったK君が溺死した。私は、その死に思い悩む相手へ長い手紙を書く。
  2. 満月の夜、私は砂浜で行ったり来たりする人影を見かける。落し物かと声をかけると、それがK君だった。
  3. K君は月光で自分の影を見ていたと明かす。影に自分の姿があらわれると、魂が月へ昇っていくのだと語る。

登場人物

私
病気の療養でN海岸に来ており、眠れずに出た満月の夜の砂浜でK君と出会う語り手。
K君
月夜の砂浜で自分の影を見つめていた人で、N海岸にいる間に病気が少しずつ進んでいた。
あなた
K君の溺死に思い悩み、一面識もない私に手紙を送った人。

読みどころ

友人の死は過失だったのか、自殺だったのか。手紙の相手が抱えるこの問いに、私は奇妙な答えを返す。K君は月へ行ったのではないか、と。月光の下で自分の影を見つめる人の話は、怪談めいているが静かで美しい。この世の外に引かれていく人の姿が、手紙の形で語られる。

まず味わいたいのは、満月の砂浜でK君を見かける場面だ。私は行ったり来たりする後ろ姿を、落し物を捜す人だと考える。その見立てが少しずつ崩れ、ぞっとする一瞬へ変わっていく。K君が影の見え方を語るくだりも具体的だ。影は短いほうがよく、少し揺れるほうがいいと言う。全体が手紙なので、話は穏やかな敬体のまま進む。

梶井基次郎は『檸檬』で知られる作家で、短い作品に鋭い感覚を書きとめた。本作は1926年に同人誌『青空』に発表された。シューベルトの歌曲やラフォルグの詩が引かれ、西洋の詩への関心もうかがえる。『檸檬』と並べて読むと、同じ作家の別の顔が見えてくる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

あなたの手紙でK君の溺死を知った私は、すぐに「K君は月へ登ってしまったのだ」と感じた。暦を開くと、死体が浜に打ちあげられた前日は満月だった。私は一と月ほどの間に健康を取り戻したが、K君の病気はその間に進んでいた。私はこの直感を参考にすぎないと断り、ほんとうの死因は分からないと書く。

そのうえで私は、満月の夜の出来事を仮に組み立てる。月が南中するころ、K君は影を追って斜めに海へ歩み入った。影がついに一つの人格を持ち、K君の魂は月へ昇っていく。抜け殻の身体は影に導かれ、機械人形のように海へ入る。干潮の高い浪がK君を倒した。

K君は魂が元へ帰ることを墜落と呼んでいた。泳げるK君なので、墜落していれば溺れることはなかったはずだ。しかし身体は浪に沖へ運ばれ、浜へ叩きつけられても感覚が戻らない。肉体は無感覚のまま終わり、K君の魂は月へ飛び去ったのだと私は結ぶ。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日