とろっこ
トロッコ
- 読了時間
- 約9分
- 文字数
- 4,324字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 小田原と熱海の間で軽便鉄道の工事が始まり、八つの良平は土を運ぶトロッコを毎日見に行く。
- 弟たちと勝手に押して土工に怒鳴られた十日余り後、良平は若い二人の土工のトロッコを押させてもらう。
- 蜜柑畑を越えて海が見える所まで来たとき、良平は遠くへ来過ぎたと気づき、帰りが気になり出す。
登場人物
- 良平
- 八つの年に軽便鉄道の工事を毎日見物に行き、トロッコに乗りたいと願う少年である。
- 弟
- 良平より二つ下で、初めにトロッコを押したときに一緒にいた。
- 縞のシャツを着ている男
- 枕木を積んだトロッコを押す若い土工で、良平に押すのを手伝わせる。
- 耳に巻煙草を挟んだ男
- もう一人の若い土工で、良平の力を褒め、茶店のあとで駄菓子をくれる。
読みどころ
トロッコに乗りたい少年の願いがかない、その喜びが少しずつ不安へ変わっていく。誰でも子どものころに一度は味わった心細さを、短い話の中で細やかに追った作品である。行きと帰りで同じ道の見え方が変わるところに、この話の面白さがある。
良平の気持ちは、景色と一緒に移り変わる。蜜柑畑の匂いや薄ら寒い海、西日の消えかかる梅の花が、そのたびに少年の胸の内を映している。良平が心の中で唱える短い言葉にも注目したい。押すより乗る方がいいという素直な喜びが、帰りを願う言葉へ変わっていく流れがよく分かる。
芥川龍之介が1922年に発表した短編で、中学校の国語教科書でも長く読まれてきた。王朝物や歴史物とは違い、平明な文章で子どもの体験をそのまま描いている。最後の数行で、話は少年の思い出から大人になった良平の今へとつながる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
二軒目の茶店を出た土工たちは、良平に「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」と言う。良平は、暗くなりかけていることと、去年の暮れに母と来た岩村の三四倍の道を一人で歩いて帰らなければならないことを一度に悟る。泣きそうになるが、泣いている場合ではないと思い、土工たちにお辞儀をして線路伝いに走り出す。
走るうちに菓子包みを道ばたへ捨て、板草履も脱ぎ捨てる。汗で着物が濡れると羽織も捨てる。涙がこみ上げても泣かずに駆け続け、暗くなった村へようやく入る。家の門口に駆け込んだとき、良平はとうとう大声で泣き出す。父や母、近所の女衆が集まって訳を尋ねるが、良平は泣き続けることしかできない。
良平は二十六の年に妻子と東京へ出て、今は雑誌社で校正をしている。何の理由もないのに、あのときの自分を思い出すことがある。疲れた彼の前には、今もあのときのように薄暗い藪や坂のある道が細く続いている。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日