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はなのきむらとぬすびとたち

花のき村と盗人たち

新美南吉

読了時間
約20分
文字数
9,656字
読みやすさ
やさしい
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「花のき村と盗人たち」帝国教育会出版部、1943(昭和18)年9月30日

三行でいうと

  1. 初夏の昼、五人組の盗人が花のき村にやって来る。かしらは藪のかげで待ち、四人の弟子に村を探らせる。
  2. 弟子たちは昨日まで職人で、見てくるのは釜や錠や笛のことばかりだ。かしらは叱って何度も村へ戻す。
  3. ひとりで待つかしらに、草鞋をはいた男の子が仔牛の手綱をあずけて走り去る。子供はいつまでも戻らない。

登場人物

かしら
ずっとまえから火つけや盗人をして来た男で、この日はじめて弟子を持つ親方になった。
釜右ヱ門
昨日まで旅あるきの釜師で、村では大きな飯炊き釜や寺の鐘にばかり目がいく。
海老之丞
昨日まで錠前屋で、村の倉の錠がもろいのを見て商売にならないと嘆く。
角兵ヱ
越後から来た角兵ヱ獅子の少年で、村では竹笛の上手な爺さんに曲を聞かせてもらう。
鉋太郎
江戸から来た大工の息子で、金持ちの家のさつま杉の天井に見とれてしまう。
草鞋をはいた子供
七歳くらいの品のいい男の子で、かしらに仔牛をあずけて子供たちの遊びに加わりに走っていく。
村役人の老人
鼻の先に落ちかかるように眼鏡をかけた老人で、役目がら人を疑うくせがあると自分で話す。

読みどころ

盗人のかしらは、長いあいだ人から嫌われ、疑われて生きてきた。その男が見知らぬ子供から、何のためらいもなく仔牛をあずけられる。信用されたことのない男がはじめて信用される。物語の中心にあるのはその一点だ。

前半は笑える場面が続く。弟子たちは昨日まで職人だったので、村へ入っても釜や錠や天井の板にばかり目がいく。叱るかしらのほうも、盗人の親方らしくふるまおうとしてどこか間が抜けている。後半は夕もやや月、ふくろうの声とともに静かな夜の場面へ移る。語り手がときどき読者に話しかけるような口ぶりにも注目したい。

新美南吉は『ごん狐』や『手袋を買いに』で知られる童話作家だ。この作品も子供に向けたやさしい言葉で書かれている。短い童話の中に、笑える場面としんみりする場面が並んでいる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

かしらは笑ううちに涙が止まらなくなる。これまで人から冷たい眼でばかり見られてきた自分を、子供も仔牛も信用してくれたのがうれしかったのだ。夕方になっても子供は戻らない。帰ってきた弟子たちにかしらはわけを話し、五人で仔牛をひいて夜の村を探し回る。けれども子供は見つからず、百姓たちもこんな仔牛は見たことがないと言う。

かしらは仔牛を届けに、村役人の家へ行く。老人は物を返しに来る者が盗人のはずはないと五人を信じ、縁側で酒をふるまう。かしらはまた涙をこぼす。いったん門を出たあと、かしらは弟子をつれて引き返し、自分たちが盗人であることと、これまでの悪事をすべて白状する。そして弟子たちは昨日弟子になったばかりで何もしていないので、許してやってほしいと頼む。

次の朝、四人の弟子はそれぞれ別の方へ村を出ていく。かれらは、かしらが最後に言った「盗人にはもうけっしてなるな。」ということばを守ろうと思っている。角兵ヱは草の中から笛を拾い、鳴らしながら歩いていく。村人たちはあの子供を探したが分からず、土橋のたもとの地蔵さんだろうと決める。その日、地蔵さんの足もとには新しい小さい草鞋が供えてあったからだ。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日