はかい
破戒
- 読了時間
- 約6時間43分
- 文字数
- 201,296字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字旧仮名
初出: 「破戒」緑蔭叢書第壱編、島崎春樹(自費出版)、1906(明治39)年3月25日
三行でいうと
- 信州飯山の小学校で教える瀬川丑松は、被差別部落の出身であることを隠せという父の戒めを守って暮らしている。
- 下宿を追われた大尽の一件を機に寺へ移った丑松は、出自を明かして生きる猪子蓮太郎に心を寄せる。
- 父の急死と先輩との再会を経て、丑松は打ち明けるか隠し通すかに迷い、身辺には噂が広がり始める。
登場人物
- 瀬川丑松
- 飯山の小学校の首座教員で、生まれを決して明かすなと父に戒められて育った。
- 猪子蓮太郎
- 自らの出自を公にして著述と演説を続ける思想家で、丑松がひそかに慕う先輩。
- 土屋銀之助
- 師範校時代からの丑松の友人で、農科大学の助手として植物の研究に進む。
- 風間敬之進
- 恩給の年限に半年足りずに退職する老教員で、酒をやめられずにいる。
- お志保
- 敬之進の娘で、十三の春に蓮華寺へ貰われてきた。
- 勝野文平
- 郡視学の甥で、検定試験に合格して新しく赴任してきた教員。
- 高柳利三郎
- 代議士の候補者で、資産家の六左衛門の娘と人目を忍んで結婚した。
- 奥様
- 蓮華寺の住職の妻で、下宿人の丑松やお志保の世話をする。
読みどころ
生まれを隠して生きるか、明かして生きるか。父の戒めと先輩の生き方の間で揺れる若い教師の心が、この長編の中心にある。差別が当たり前に行われる町で、丑松は人と親しくなるほど疑いと恐れを深めていく。友人の何気ない一言にも顔色を変える姿が、読む者の胸に重くのしかかる。
注目したいのは、丑松が打ち明けようとして言い出せない場面の繰り返しである。根津の宿や上田へ向かう道で、言葉は喉まで来ては止まってしまう。父の遺言の「忘れるな」は、そのたびに丑松の心の底で響く。信州の山々や千曲川、雪に埋もれた飯山の景色も、丑松の心の動きに重ねて描かれている。
詩人として出発した島崎藤村が、初めて書き上げた長編小説である。明治三十九年に自費出版で世に出た。古い表記や漢語が多く、読み通すには根気がいる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
飯山へ戻った丑松のもとへ高柳が訪れ、互いの秘密を黙っていようと持ちかけるが、丑松は関わりを否定して退ける。やがて文平が丑松の出自を校長に耳打ちし、町にも噂が広まっていく。お志保は住職の振る舞いに耐えかねて寺を出て、病に倒れた父のもとへ帰る。
その後、蓮太郎は飯山の法福寺で演説して高柳の結婚の内幕を明かし、帰り道に襲われて命を落とす。先輩の遺骸の前で一夜を過ごした丑松は、生まれを明かすと決める。翌日、教室で生徒に自分の出自を告げ、隠していたことを詫びて板敷にひざまずく。
丑松は休職となり、生徒たちは校長に引き留めを願い出るが聞き入れられない。お志保は銀之助に、丑松と一生を共にする覚悟を伝える。丑松は市村弁護士の引き合わせで、テキサスで農業を始める大日向に会う。蓮太郎の遺骨を護って未亡人と東京へ向かう丑松を、お志保や生徒たちが見送り、橇は雪の上を滑り出す。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日