せいねん
青年
- 読了時間
- 約4時間6分
- 文字数
- 122,607字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
三行でいうと
- Y県から上京した小泉純一は、小説家を志して大石路花を訪ね、谷中の初音町に小さな家を借りる。
- 拊石の講演や医科の学生大村との対話に揺さぶられつつ、有楽座で出会った坂井夫人の根岸の家を訪ねる。
- 近所の娘お雪や柳橋の芸者おちゃらにも心を乱された純一は、年の暮に夫人のいる箱根へ向かう。
登場人物
- 小泉純一
- Y県の資産家の一人息子で、創作家になろうと決めて上京した青年。仏蘭西語の本を取り寄せて読んでいる。
- 大石狷太郎
- 東京新聞に小説を書いている作家で、路花と号する。純一は紹介状を持ってこの人を訪ねる。
- 瀬戸速人
- Y市の中学で純一と同級だった美術学校の生徒。純一に金を借りようとして断られる。
- 大村荘之助
- 文学好きな医科の学生。倶楽部で知り合い、純一の相談相手になる。
- お雪さん
- 近所の別荘にいる銀行頭取中沢の娘。純一の部屋へたびたび遊びに来る。
- 坂井れい子
- 法律学者坂井恒の未亡人。有楽座で純一の隣に座り、根岸の家へ本を見に来るよう誘う。
- 拊石
- 倶楽部に招かれてイブセンの話をする小説家。氏は平田である。
- おちゃら
- 柳橋の若い芸者。同県人の忘年会で純一に名刺を渡す。
- 岡村
- 四条派の大家として知られる画家。箱根の福住に泊まっている。
読みどころ
小説家になりたいのに、まだ一行も書けない。上京したばかりの純一が抱えているのは、その焦りである。日記には「生きる。生活する。」と書きつけ、真の生活とは何かを問い続ける。作家や学生との対話、年上の女性や少女との出会いが、その問いに少しずつ形を与えていく。
語り方の切り替えに注目したい。純一を外から描く章のあいだに、純一自身の日記が二度はさまる。人に言いにくい出来事ほど、日記の筆は遠回りをする。大事な場面では、日記の紙が一枚引き裂かれたままになっている。拊石のイブセン講演や、大村と交わす個人主義の議論も読みどころである。明治の青年が西洋の思想をどう受け止めたかがよく見える。
『青年』は森鷗外が雑誌『スバル』に連載した長編である。作中では若い文士たちが作家の鴎村を噂し、純一もその訳書を退屈だと思っている。上京から年明けまでの二か月あまりを描いたところで、物語は一応の終わりを迎える。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
大村が近県旅行に発ったあと、純一は十二月三十日の夕方に急に思い立って箱根へ向かう。国府津ではどの宿にも断られ、巡査の世話で煤けた宿に泊まる。同じ二階に後から来た見知らぬ女と言葉を交わすが、顔は見ないまま朝に別れる。湯本では夫人のいる福住を避け、柏屋に宿を取る。
夕方、土産物の店の前で、純一は画家の岡村と連れ立って歩く坂井夫人に出会う。その夜、福住に招かれて二人と話すうちに、夫人と岡村が夏も一緒に箱根で過ごしたことを会話から知る。不快に耐えられなくなった純一は先に席を立つ。宿に戻って床の中で、箱根を去り、根岸との行き来を断ち、借りたラシイヌを小包で送り返そうと決める。
元日の朝、純一は東京へ帰って書こうと思い立つ。題材は亡くなった祖母から聞いた伝説で、現代語で書くつもりである。女中のお絹が、自分を勉強に来た客と見ていたことを聞き、純一はこの女の暮らしを卑しく考えたことを悔いる。車で宿を発つとき振り返ると、福住の座敷は障子が締まって静かだった。末尾には、書こうとした事の一部しか書いていないが一応これで終わりとする、と鷗外の言葉が添えられている。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日