ろまんどうろう
ろまん灯籠
- 読了時間
- 約1時間15分
- 文字数
- 37,086字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「婦人画報」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年6月
三行でいうと
- 洋画家の入江新之助が亡くなったあとの家には、ロマンスを好む五人の兄妹と祖父母と母が暮らしている。
- 正月の五日間、兄妹は物語を一日一人ずつ書きつぐ遊びを始める。一番手の末弟はラプンツェルの話を書く。
- 長女と病床の次男、次女が書きつぐうちに、王子と結ばれたラプンツェルは出産のあと命が危うくなる。
登場人物
- 長兄
- 二十九歳の法学士で、イプセンを研究し、生まれてから一度も嘘をついたことが無いと公言している。
- 初枝
- 二十六歳の長女で、鉄道省に勤めながら本をよく読み、自分でもこっそり書いている。
- 猛
- 二十四歳の次男で、帝大の医学部に籍を置く病弱な美男であり、人を見下したがる毒舌家である。
- ルミ
- 二十一歳の次女で、鏡の前で自分に見とれる気取り屋であり、祖父にひいきされている。
- 和夫
- 一高に入ったばかりの十八歳の末弟で、家のもめごとに口を出しては一家に敬遠されている。
- 祖父
- 八十を過ぎた元貿易商で、家族のうち一番の功労者に銀貨の勲章を贈る案を考え出した。
- 祖母
- 勲章をばからしいと拒むはっきりした人で、末弟をかわいがっている。
- みよ
- 兄妹の母で、舅に孝行し、熱を出した次男の語る物語を代わりに書きとる。
- さと
- 十三の時から入江家に奉公している女中で、仇討ちの話を好み、次男を死ぬほど好いている。
- ラプンツェル
- 兄妹の物語の主人公で、森に住む魔法使いの婆さんの一人娘である。
- 王子
- 十六歳の時に魔の森へ迷い込み、ラプンツェルに逃がしてもらった王子である。
読みどころ
五人の兄妹が、一つのおとぎ話を一日ずつ書きついでいく。書き手が替わるたびに、物語はその人の性格に引っぱられて向きを変える。末弟は発端を書くはずが話を最後まで終わらせてしまい、長兄はお説教を書いてしまう。この作品では、ラプンツェルの物語とそれを書く家族の姿を同時に読むことになる。
各章の初めに、その日の書き手が机に向かうまでの様子が描かれる。次女はピアノを弾いて足を洗い、隠れてチョコレートとドロップを食べてから書き始める。熱で寝ている次男は母に書きとらせながら、女中のさとに思いがけない問いを投げる。語り手の「私」は兄妹をからかいながらも、それぞれの良さを書き添えている。
語り手は冒頭で、いまの入江家ではなく四年前の家を書くと断っている。作中の物語は、末弟がアンデルセンやグリムから借りてまとめた話が出発点である。太宰治はこの家族を、それぞれの癖まで含めて温かく描いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
三日目は熱で寝ている次男が語り、母が書きとる。男の子が生まれたあと、ラプンツェルは日に日に弱っていく。そこへ魔法使いの老婆が現れる。魔法使いの家に生まれた娘は子を産むと死ぬか、醜い顔になるかのどちらかだと老婆は告げる。王子は、たとえ醜い顔になっても生かしてほしいと頼む。四日目の次女は、愛される資格より愛する資格を説く長い前置きを書く。そのあと老婆はラプンツェルの胸を刺し、大釜の煮え湯に投げこむ。釜の中から呼ばれて、ラプンツェルが顔を出す。
五日目の長兄は、釜から出てきた顔を輝くばかりに美しいと書く。ラプンツェルの顔は野薔薇のようなかわいらしさを失い、秋の草花のような品位を備えていた。老婆は自分の魔法より強い力に負けたと言う。祭壇を燃やして森へ帰り、ふつうの婆さんとして余生を送る。長兄は夫婦の互いの尊敬を説き、結びにパウロの書簡を書き写す。
昼過ぎに家族が客間に集まり、五人が順に読み上げる。祖父は「ロオマンスは酔うて聞くのが通なものじゃ」と言ってウイスキイを飲む。祖父は酔って、王さまと王妃さまのことを誰も書いていないと文句を言う。祖母に叱られ、瓶とグラスを取り上げられてしまう。しょげた祖父に、母が勲章をそっと手渡す。一番よく書けた人に祖父が授けるのだと、母は子どもたちに伝える。しかし祖父はまじめな顔になる。勲章は母に永久にあげると言い、「孫たちを、よろしくたのみますよ。」と頼む。子どもたちはなんだか感動し、その勲章を立派なものに感じる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日