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じごくへん

地獄変

芥川龍之介

読了時間
約53分
文字数
26,231字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字旧仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 堀川の大殿様に長く仕えた者が、本朝第一の絵師良秀と、地獄変の屏風の由来を語り始める。
  2. 大殿様に地獄変の屏風を命じられた良秀は、弟子を鎖で縛り、鳥に襲わせて、その姿を写していく。
  3. 見たものしか描けない良秀は、牛車の中で女が焼かれるところを見せてほしいと大殿様に願い出る。

登場人物

良秀
五十近い痩せた老人の絵師で、腕は並ぶ者がないとされるが、高慢なため誰からも嫌われている。
大殿様
堀川の邸の主で、良秀に地獄変の屏風を描くよう命じる。
良秀の娘
十五歳で大殿様の邸に小女房として上がっている良秀の一人娘で、良秀は娘を何より可愛がっている。
猿の良秀
丹波から献上され、若殿様に良秀と名付けられた猿で、娘にかばわれてからは娘のそばを離れない。
私
大殿様に二十年来仕えている語り手。
良秀の弟子
屏風の絵のために、師匠に鎖で縛られたり耳木兎に襲われたりする。
横川の僧都様
良秀の名を聞くと顔色を変えるほど良秀を憎んでいる僧。

読みどころ

絵のために、人はどこまで踏み込めるのか。良秀は「私は総じて、見たものでなければ描けませぬ」と言い、地獄を描くために弟子を鎖で縛り、耳木兎に襲わせる。それでいて一人娘だけは、気違いのように可愛がっている。絵への執着と娘への情が一人の男の中でどうぶつかるのかが、この物語の芯である。

語り手は大殿様に仕える者で、「ございます」の丁寧な口調で語り続ける。大殿様が娘に想いを懸けているという噂を、語り手は何度も打ち消す。その一方で、娘が夜の部屋から駆け出してくる場面も語り手自身が見ている。去っていった相手が誰なのかを、語り手は最後まで口にしない。語り手が言い切ることと見たことを分けて読むと、大殿様の姿が違って見えてくる。娘の身を案じる猿の振る舞いも、読み落とさないでほしい。

芥川龍之介は、平安時代の説話を題材にした短編を数多く書いた。本作は『宇治拾遺物語』にある絵仏師良秀の話をもとに、大正七年に書かれた。説話では短い逸話にすぎないものを、芥川は絵師と大殿様と娘の物語に仕立て直している。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

二三日後の夜、大殿様は洛外の雪解の御所の庭に檳榔毛の車を据えて、良秀を呼ぶ。車には罪人の女房を縛って乗せてあると告げ、簾を上げさせる。鎖にかけられていたのは良秀の娘だった。良秀は車へ駆け寄ろうとするが、大殿様の命で松明が投げられ、車は燃え上がる。

良秀は足を止め、恐れと悲しみと驚きを顔に浮かべて炎を見つめる。そこへ御所の屋根から猿の良秀が車の中へ飛び込み、娘の肩に縋ったまま黒煙に隠れる。やがて良秀の顔には恍惚とした法悦の輝きが浮かび、良秀は腕を組んで火の柱の前に立ち尽くす。縁の上の大殿様だけは青ざめて、獣のように喘ぎ続けていた。

世間では、大殿様が恋の恨みから娘を焼いたとの噂が立つ。語り手は、絵師根性を懲らすためだったと大殿様自身の口から聞いたと言う。良秀も、画のために親子の情を忘れた者と罵られる。一月ほどして屏風が出来上がると、良秀を憎んでいた横川の僧都様も思わず膝を打ち、それ以来、邸で良秀を悪く言う者はほとんどいなくなる。だが良秀は、屏風が出来上がった次の夜に自分の部屋の梁に縄をかけ、首をくくって死んでいた。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日